入れ歯の使いにくさを解消するために、入れ歯安定剤を使用することがあるかもしれません。
この記事では、入れ歯安定剤であるポリグリップの副作用や、入れ歯安定剤の安全性について歯医者が解説します。すでに入れ歯安定剤を使用している人も、これから使用する人も必見の内容です。
- 入れ歯安定剤ポリグリップの副作用
- ポリグリップに含まれていた亜鉛による症状
- ポリグリップのトラブルについて
1分でわかる!ポリグリップの副作用

ポリグリップを使用することで、かゆみ・発赤などのアレルギー症状や、便秘・下痢などの消化器症状などの副作用が出現する可能性があります。
どのような製品でもリスクは完全に避けることはできません。ポリグリップは管理医療機器として認証された製品であり、JIS規格においても一定の品質が定められています。
添付文書に記載された使用法を守れば、安全に使用できる製品と言えるでしょう。
以前のポリグリップには亜鉛が含有されており、誤った使用により亜鉛の過剰摂取を引き起こし、貧血や神経症状が引き起こされる可能性がありました。しかし現在のポリグリップでは、全ての製品に亜鉛は含有されておらず安心です。
使用後には入れ歯安定剤を丁寧に清掃する必要があります。口腔内に残った入れ歯安定剤により、誤嚥性肺炎が発生したと考えられる事象が発生しています。
入れ歯安定剤は、適切に調整された入れ歯に使用することが前提です。入れ歯による痛みや入れ歯の外れやすさがある場合には、まずは歯医者に相談することが重要です。
新ポリグリップの副作用を知る前に!入れ歯安定剤の基礎知識
まずはポリグリップの特徴や基本的な使用方法を解説します。ポリグリップの種類を知る前に、確認しておきましょう。
ポリグリップの特徴
ポリグリップの最大の特徴はラインナップの多さにあります。機能性の違いや剤形の違い、味の違いなど、ユーザーの多様なニーズに応じた製品選択が可能です。
ポリグリップの種類と選び方は下記の記事で紹介しています。

どの製品も薄くのばして使用できるように工夫されており、入れ歯安定剤の厚塗りを防ぎます。
ドラッグストアなどでの取り扱いも多く、容易に入手できることもポリグリップの特徴です。

歯科医院でもポリグリップを取り扱っているクリニックがあります。
ポリグリップの使用方法
ポリグリップの使用方法は非常にシンプルで、初心者の方でも簡単に使えます。
入れ歯の清掃後、適量を入れ歯の裏面に点状または線状に塗ります。その後、入れ歯を装着し、1分間かみこみます。使用後は入れ歯に付着したポリグリップを義歯ブラシで洗い、しっかりと洗浄しましょう。


ポリグリップの使い方について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。


ポリグリップの副作用
入れ歯安定剤は用法・用量を守れば安全な製品です。しかし、どのような製品でもリスクがないものは存在しません。本項では、ポリグリップと副作用の関係を見ていきましょう。
副作用とは
副作用とは、適正使用でも起こり得る望ましくない作用を指します。
誤った使用法による健康被害は、副作用とは呼びません。
入れ歯安定剤では、口腔粘膜のアレルギー症状や下痢などの消化器症状が考えられます。
ポリグリップの主な副作用
ポリグリップの添付文書には、使用上の注意として、以下の3つの症状が記載されています。
- 本品の使用中又は使用後に発疹・発赤、かゆみ、はれ等のアレルギー症状が現れた場合
- 歯肉等の痛み、刺激感、しびれ、異常感覚等の口内・口周囲の異常や吐き気等の胃腸症状が現れた場合
- 継続的な下痢や便秘の症状又は増強が見られた場合
添付文書には「副作用」としての記述はありませんが、これらの症状は広義の副作用と考えることができるでしょう。
日常的に食べる小麦や卵などでも人によってはアレルギー症状が出現するように、どのような製品でもアレルギー症状を完全に避けることは困難です。
入れ歯安定剤の口腔内で使用するという特性上、胃腸症状や下痢・便秘といった副作用が生じる可能性もあります。しかし、添付文書に記載されている使用量を守れば、問題ないと考えられます。
ポリグリップに含まれていた亜鉛による副作用
亜鉛の長期過量摂取は、腸での銅の吸収を抑制してしまい、銅欠乏症を引き起こす可能性があります。銅欠乏症は異常感覚や歩行障害などの神経症状や、貧血などを生じる疾患です。
以前はポリグリップを含む一部の入れ歯安定剤に、亜鉛が含まれていました。添付文書を守った使用では問題がないものの、入れ歯安定剤の誤った使用(入れ歯安定剤の多量使用)による健康被害が報告されました。
厳密には、医薬品や医療機器の誤った使用による健康被害は、副作用とは異なります。
2010年3月4日、当時ポリグリップを販売していたグラクソ・スミスクライン株式会社が、一部のポリグリップ製品のリコールを発表しました。誤った使用法を長期間続けることで、亜鉛による貧血や神経症状が出現する可能性があることが理由です。
現在のポリグリップシリーズには、亜鉛は含有されていませんので安心です。
副作用が出やすい人の特徴と注意点
ポリグリップの副作用が出やすい人の特徴はわかっていません。また、ポリグリップ使用後にアレルギー症状などが出現した場合でも、ポリグリップと因果関係があるとは限らないため、注意が必要です。
唾液の量が少ない口腔乾燥症では、アレルギー症状が出やすいとの報告もありますが、入れ歯安定剤を対象としたデータはなく、推測の域をでません。
ポリグリップを使用している方が現時点できることは、添付文書に書かれている内容を遵守することと、気になる症状が出現した場合には歯科医師に相談することです。
ポリグリップのトラブル│溶けてしまう心配や誤飲・誤嚥のリスク
ポリグリップ使用中には、どのようなトラブルが起こりうるのでしょうか?
本項では、考えられるポリグリップのトラブルを、歯医者目線で科学的に解説します。
ポリグリップが溶けてしまう
ポリグリップは、口腔内の水分に溶け出すことで粘着力が発揮されます。つまり、ポリグリップが溶けてしまうことは避けては通れません。
ポリグリップが溶けてしまうことが心配な方は、長時間の使用をうたっている製品を使用してみるのもよいかもしれません。「新ポリグリップ 長時間安定&噛む力EX」は2025年に新発売された、長時間安定をコンセプトにした入れ歯安定剤です。
ポリグリップが入れ歯や歯ぐきに残ってしまう
ポリグリップが入れ歯や歯ぐきに残ってしまうのは仕方がないことです。粘着力を下げれば残りにくくなりますが、入れ歯が外れやすくなってしまいます。
入れ歯や歯ぐきに残ってしまったポリグリップをとるにはどうすればよいのでしょうか?
ポリグリップをとるコツは、水分を含ませることと、専用の入れ歯洗浄剤を使用することの二つです。
ポリグリップは水に溶ける性質があります。いきなり入れ歯や歯ぐきに残ったポリグリップを取ろうとするのではなく、口をゆすいだり、入れ歯を水につけたりしてから、ポリグリップを取りましょう。
口の中に残ってしまったポリグリップは、ガーゼやスポンジブラシを使用すると除去しやすいです。
入れ歯に残ったポリグリップは、入れ歯安定剤を溶かす特殊な入れ歯洗浄剤「デントロクリーンムース」を使用すると簡単に除去できます。入れ歯にデントロクリーンムースをプッシュし、入れ歯用歯ブラシでこすり洗いをしましょう。
ポリグリップを誤飲・誤嚥した
誤飲とは、食べ物ではないものを飲み込んでしまうことです。子どもによる磁石や電池、たばこの吸い殻の誤飲が有名です。
誤嚥とは、口から食道を通って胃に入るはずの食べ物などが、気管を通って肺に入ってしまうことです。誤嚥性肺炎という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
ポリグリップの誤飲・誤嚥は、通常の使用では問題が起こることは少ないでしょう。
しかし、子どもなどが誤って大量のポリグリップを誤飲するなどのケースには注意が必要です。
ポリグリップの添付文書には、保管及び取扱い上の注意として「小児や第三者の監督が必要な方の見えないところ及び手の届かないところに保管してください。」と記載されていますので、保管には注意が必要です。
一部の研究では、入れ歯安定剤には、カンジダ菌などのカビが増殖しやすいことがわかっています。口腔内に残った入れ歯安定剤を誤嚥することで、誤嚥性肺炎を引き起こしたと考えられるケースも報告されていますので、使用後の清掃は念入りに行いましょう。
MAUDE Adverse Event Report: GLAXOSMITHKLINE DUNGARVAN LTD NEW POLIGRIP; DENTURE ADHESIVE
ポリグリップ使わない方がいい?入れ歯安定剤は安全性
入れ歯安定剤は「適切な義歯をより快適にする補助材」で、正しく使えば有用です。本項では使うべき場面と避けるべき場面、得られる効果と安全性の根拠を整理します。
入れ歯安定剤を使うべきケース
入れ歯安定剤を使用するシーンは以下の二つです。
- 歯の残存数や顎の骨の痩せ具合などにより、入れ歯が使いにくい場合
- 入れ歯の治療を受けていて、一時的に入れ歯が不安定な場合
「歯の残存数や顎の骨の痩せ具合などにより、入れ歯が使いにくい場合」について、もう少し具体的に見ていきましょう。入れ歯が使いにくいと感じる理由をいくつか例示します。
- 唾液が少なくて入れ歯が外れやすい
- 顎の骨が痩せてしまい、入れ歯が外れやすい
- 歯ぐきが薄く、入れ歯が当たって痛い
- 入れ歯と歯ぐきの間に食べ物が挟まるのが気になる
- 入れ歯が外れそうで怖い
これらの場合には、入れ歯安定剤を使用することで、入れ歯をより快適に使用できることがあります。
入れ歯安定剤の使用は、適切に調整された入れ歯であることが前提であり、歯科医師の指導のもとで使用することが望ましいです。
不適切な入れ歯には、入れ歯安定剤を使用してはいけません。まずは歯医者を受診し、使用している入れ歯に問題がないか確認してもらいましょう。
入れ歯安定剤を使うべきではないケース
直近の数か月以内に歯医者を受診していない場合は、入れ歯安定剤の使用は控えるか、急なトラブル時の応急的な使用にとどめましょう。
入れ歯を使うと歯ぐきが痛くなる場合や入れ歯が簡単に外れてしまう場合は、入れ歯そのものに問題があることもあります。
まずは歯医者での入れ歯チェックを受けることが大切です。
ポリグリップの添付文章でも、以下の場合は歯医者を受診するようにと記載されています。
- 使用回数が1日2回以上となる場合は入れ歯が合っていない可能性があるため歯科医師に相談してください。
- 歯ぐきがやせる等により不適合になった入れ歯を本品で安定させるのは一時的な場合とし、できるだけ早く歯科医師に入れ歯の調整を相談してください。
入れ歯安定剤の有用性
多数の研究で、入れ歯安定剤は入れ歯の維持・安定の向上、食片侵入の抑制、食べ物のかみやすさの改善に寄与することが示されています。
入れ歯安定剤を使わなくてもストレスなく入れ歯が使える状態が一番ですが、難しいこともあります。入れ歯安定剤を上手に使いこなし、ストレスの少ない入れ歯生活を送ることが重要です。
ポリグリップの安全性
ポリグリップは、第三者機関により認証された管理医療機器です。
安全性については一定の基準を満たしていると考えてもよいでしょう。JIS規格でも生体適合性やpH値、安定性などの品質を満たすように定められています。
これらの安全性は適正使用した場合に限りますので、ポリグリップを使用する場合は添付文書をよく読み、必要に応じて歯医者からアドバイスをもらうようにしましょう。
「新ポリグリップの副作用」のまとめ
入れ歯のズレや痛みを補助的にケアする選択肢として、入れ歯安定剤ポリグリップの使用があります。
入れ歯安定剤を使用する際は、添付文書を守ることが副作用予防の基本です。まれに発疹やかゆみ、口内の違和感、下痢・便秘などが起こる可能性があり、気になる症状が続く場合は使用を中止して歯医者に相談しましょう。
現在のポリグリップには過去に問題となった亜鉛は含まれていません。、適合した入れ歯に適量を用い、毎回しっかり清掃すれば、一定の安全性は担保されています。
Q&A
「新ポリグリップの副作用」に関連する質問を集めました。
- 入れ歯安定剤は体に悪い?
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適正に使用すれば、入れ歯安定剤は体に悪いとはいえません。どのような製品でもアレルギー症状などの一定のリスクは存在します。何事も決められた使用法を守り、正しくしようすることが大切です。






