被せ物(差し歯)と仮歯がとれたときの応急処置にポリグリップは使える?

差し歯や仮歯が外れたときにポリグリップは使える!?
遠藤眞次
この記事の執筆者
歯科医師兼歯科専門ライター。東京都池袋の歯医者「グランドメゾンデンタルクリニック」で診療しています。

差し歯や仮歯がとれた時の応急処置として、ポリグリップや接着剤の使用を思い浮かべるかもしません。

本記事では、被せ物(差し歯)と仮歯の違いから、仮歯を長持ちさせるためのポイントや応急処置法について歯科医師が解説します。

本当にポリグリップは使用してもよいのか、本記事を読めば一目瞭然です。

本記事で学べる歯科知識
  • 被せ物(差し歯)と仮歯の違い
  • 仮歯をとれにくくするポイント
  • 差し歯と仮歯が取れたときの応急処置法
目次

「被せ物(差し歯)と仮歯がとれたときの応急処置法」の結論

結論

被せ物(差し歯)や仮歯がとれたときには、まずかかりつけ歯医者に連絡します。

診療時間や予約の都合で、かかりつけ歯科医院の受診が困難な場合には、受診できる歯医者を探しましょう

何らかの理由ですぐに歯医者を受診できない場合には、マスクなどで口元を隠すことが有効です。

瞬間接着剤やポリグリップは絶対に使用してはいけません

通販サイトでは、歯科専用の仮付け用セメントを購入できますが、高価である点と、配送に時間がかかる点を考慮すると、歯科医院を受診するほうが簡単かもしれません。

差し歯や被せ物、仮歯ができる限りとれないようにするためには、硬いものや粘着質なものをかまないようにし、フロスの通し方にも注意する必要があります。

差し歯や仮歯が外れたときの基礎知識

本項では、差し歯や仮歯、ポリグリップの基礎知識を解説します。本項を読めば、差し歯と仮歯の違いがわかります。

差し歯とは?

差し歯とは、虫歯や外傷によって歯が大きく損傷した際に、歯の根っこ(歯根)を残しつつ、歯根に金属の土台(コア)を立て、被せ物を装着する治療法です。

歯根にコアを差し込むことから、差し歯と呼ばれるようになったと考えられます。

差し歯は、歯科治療として古くから用いられている方法で、現在も行われています。

しかし、金属のコアを使用することは減ってきており、現在では失活歯に対する被せ物を「差し歯」と呼称するようになってきています。

失活歯(しっかつし)とは

歯の内部の歯髄神経が除去された歯のこと。歯そのものの感覚は失うが、歯の周りの組織は依然として生きているため、失活歯でも痛みを感じることはある。

レジンコアを築盛したあとに、クラウン用の形成を終了した状態
レジンコアの状態。従来の差し歯とは異なり、歯根内に金属を差し込むことはしていない。
レジンコアを土台に、ジルコニアクラウンが装着された状態
レジンコアの上に被せ物(セラミッククラウン)が装着された状態。

仮歯とは?

仮歯は、最終的な被せ物(差し歯)ができるまでの間、歯の機能や見た目を一時的に補うために装着するものです。主にレジンと呼ばれるプラスチックで作製されます。

仮歯はあくまで一時的なものであるため、必要に応じて歯科医師が着脱できなければいけません。

そのため、最終的なクラウンを装着する際とは異なり、仮付け用の接着力の弱い接着剤(仮着材:かちゃくざい)が用いられます。

また、最終的な被せ物(差し歯)と比べて、土台と仮歯の適合精度は低いことが一般的です。適合精度が低いため、最終的な被せ物(差し歯)よりも仮歯は外れやすくなっています。

ポリグリップとは?

ポリグリップは、入れ歯安定剤として広く利用されている製品です。多くのラインナップを有し、ドラッグストアでも手軽に入手できるという特徴があります。

ポリグリップは口腔内の水分を吸うことで、徐々に粘性を生じ、入れ歯と歯ぐきを粘着させる働きをします。

ポリグリップはあくまでも入れ歯用の粘着剤であり、仮歯や差し歯を固定するための製品ではありません

ポリグリップには複数の種類があります。
ポリグリップには種々あるが、仮歯や差し歯の装着は禁止されている。

ポリグリップのについてもっと知りたい方は下記の記事をご覧ください。

新ポリグリップSa 添付文書

被せ物(差し歯)と仮歯がとれる原因

どうして被せ物(差し歯)や仮歯が取れてしまうのでしょうか?本項では、差し歯や被せ物、仮歯が取れる原因をまとめました。

強い咬合力

状態が悪い被せ物(差し歯)や仮歯では、強い咬合力には対応できません。硬い食べ物は歯に負担がかかりますので、治療中は注意が必要です。

粘着質な食品を食べる

ガムやキャラメル、チューイングキャンディーなどは、仮歯にくっついてしまい、仮歯を外れやすくしてしまいます。

歯間清掃用具の誤った使用

フロスや歯間ブラシの使用方法を誤ると、仮歯が取れてしまうことがあります。

歯間ブラシを使用している場合は、適切なサイズを選択することが大切です。歯間ブラシのサイズ合わせは難しいので、かかりつけの歯科医院で適切なサイズを教えてもらいましょう。

仮歯を装着している部位のフロッシングは、持ち手がついているものではなく、糸タイプのフロスを使用しましょう。糸タイプの製品は、使用にコツがいりますので、歯科医院で歯磨き指導を受けることをおすすめします。

おすすめのフロスは、オーラルケアのフロアフロスです。歯科医療従事者も数多く使用しています。

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二次むし歯

被せ物(差し歯)の下に二次むし歯ができてしまうと、被せ物(差し歯)が取れてしまうことがあります。

二次むし歯により、土台となる歯がもろくなってしまい、被せ物(差し歯)が外れます。

不適切な治療

被せ物(差し歯)や仮歯と土台となる歯の適合精度が悪ければ、外れやすくなってしまいます。

また、被せ物(差し歯)を接着する際の操作は繊細ですので、不適切な接着操作により、十分な接着力を発揮できないことがあります。

被せ物(差し歯)と仮歯をとれにくくするポイント

被せ物(差し歯)と仮歯をとれにくくするポイントは3つあります。被せ物(差し歯)や仮歯の外れやすさは、歯科医師の技術も影響するため、歯科医院選びも大切です。

硬い物をかまない

状態が悪い差し歯や、治療中の仮歯で積極的に食べ物をかむのは避けましょう

ナッツ類や飴・ラムネ、氷などの硬い食品をかむことで、差し歯や仮歯がとれてしまった患者さんを診察したことがあります。

粘着質な食品を食べない

ガムやキャラメルなどの粘着質な食品は、仮歯が外れる原因となります。加えて、パンなどの咀嚼により粘着性を生じる食品にも注意が必要です。

仮歯装着中は粘着質な食品は避けましょう

フロスの使用法を熟知する

仮歯を装着している際には、フロスの使用にもコツが必要です。糸タイプのフロスを使用し、前後方向に引き抜くように使用します。

差し歯と仮歯の応急処置方法

急に差し歯や仮歯が外れたときはどうすればよいのでしょうか。本項では歯科医師が考える応急処置について解説します。

歯科医院を受診する場合は、外れた差し歯や仮歯を持参することを忘れないようにしましょう。

マスクを着用する

マスクを着用して口元を隠すことが、最も現実的な応急処置ではないでしょうか。近年ではCOVID-19やインフルエンザの流行もあり、マスクを着用していても以前のような違和感はありません。

仮歯や差し歯が外れたからといって、食事が取れなくなることは少ないと考えられます。食事は取りにくくなるものの、マスクを着用すれば審美障害は避けられるでしょう。

そのまま戻す

仮歯と歯の適合がよければ、接着剤がなくても仮歯がはまる場合があります。食事をするには心もとないものの、見た目を回復することは十分可能です。

仮歯をもとに戻す場合は、仮歯の内面や歯の表面に付着した仮着材(主に白色)を可能な限り除去してから戻しましょう。仮着材を除去しなければ、仮歯が浮き上がる可能性があります。

歯科医院を受診する

一番のおすすめは、早急に歯科医院を受診することです。外れた被せ物(差し歯)や仮歯を着ける場合には、かかりつけの歯科医院を受診することがベストです。

かかりつけ歯科医院の受診が困難な場合には、ほかの歯科医院の受診を検討します。土日祝日でも、自治体の歯科医師会の当番医が診療をしていることが多いですし、大都市では夜間診療を行っている歯科医院も存在します。

歯科医院を受診する際の注意点としては、外れた差し歯や仮歯をすぐに戻せる保証はないということです。差し歯を固定する歯根がボロボロになってしまっている場合や、仮歯が粉々になっている場合には短時間での治療は困難です。

特にかかりつけではない歯科医院の応急処置には、限界があることを理解しておきましょう。すでに口腔内の状況がわかっている患者さんと、初めてお目にかかる患者さんとでは、処置に要する時間が異なります。

治療中に問題が起こりにくく、何か問題が起こった場合でも迅速な対応をしてくれる歯科医院で、治療を開始することが大切です。

歯科用仮着材を使用する

現在では通販サイトなどで専門的な製品を購入することができます。

歯科医院で使用される仮着材は、主に以下の3製品です。この3製品のうち、一番多くの歯科医院で使用されている仮着材は、ハイボンドテンポラリーセメントハードだと思います。

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さらに、あふれた仮着材を除去する道具も必要になります。歯科医院ではは、探針(たんしん)またはエキスプローラーと呼ばれる製品を使用しています。

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仮に道具がそろったとしても、仮付けには細心の注意を払う必要があります。土台となる歯の清掃と乾燥が重要ですが、自分自身だけで行うのは至難の業ですので、歯科医師としてはおすすめはできません。

ポリグリップを使用する

結論から言うと、被せ物(差し歯)や仮歯が外れた際の応急処置として、ポリグリップを使用することは禁止されています。

ポリグリップの添付文書には、「本品はブリッジ、さし歯、一部の部分入れ歯には使用できません。」と記載されています。

仮歯の記載はありませんが、差し歯と同様の構造であることから、仮歯への使用も禁止であると解釈できるでしょう。

ほかの歯科医院のWebページを見てみると、歯科医師がポリグリップの使用を推奨している記事を見かけますが、メーカー公式の添付文書を無視した誤った内容です。

さらに、仮ににポリグリップを使用したとしても、外れた被せ物(差し歯)や仮歯をくっつけることはできないと感じます。ポリグリップの粘着性能を発揮するためには、水分の吸収と時間が必要です。

被せ物(差し歯)や仮歯の内面にポリグリップを塗って装着したとすると、ポリグリップが唾液などの水分と触れにくくなってしまいます。

また、入れ歯においてもポリグリップが十分な粘着力を発揮するまで30〜60分ほどかかりますので、瞬間接着剤のような作用は期待できません。

公式に禁止されていることはもちろんですが、歯科医師として経験からも、ポリグリップで外れた被せ物(差し歯)や仮歯をくっつけることは困難だと思われます。

市販の瞬間接着剤を使用して、ご自身で外れた差し歯を固定して来院される患者さんが数年に一度はいますが、絶対にやめましょう。

被せ物(差し歯)と仮歯がとれたときの費用

被せ物(差し歯)と仮歯が外れたときの治療費は、外れたものの種類と、受診する歯科医院によってことなります。

被せ物(差し歯)の装着費用は約400〜5,000円、仮歯の再装着費用は約200〜800円です。

被せ物(差し歯)の装着費用

保険治療で作製した被せ物(差し歯)がとれた場合にかかる処置代は、約200円です。

かかりつけ歯医者の場合は再診料がかかるため、プラス約200円、初めて受診する歯医者では初診料がかかるため、プラス約800円です。

エックス線写真が必要な場合には、追加で200〜1,200円かかります。

したがって、約400〜2,200円で被せ物(差し歯)を再装着することができます。

セラミックなどの自費治療の被せ物(差し歯)には、保険が適用されませんので、各歯医者により治療費は異なります。一般的に約3,000〜5,000円の印象です。

仮歯の装着費用

保険治療の仮歯の再装着には、処置代を請求できません。患者さんが負担するのは再診料または初診料のみとなることが多いでしょう。

かかりつけ歯医者では再診料約200円、はじめての歯医者では初診料約800円がかかります。

外れた被せ物(差し歯)や仮歯を放置するとどうなる?

外れた被せ物(差し歯)や仮歯を放置すると、歯並びの悪化や急速なむし歯を引き起こし、最悪の場合抜歯となってしまうことがあります。

歯並びが悪化する

被せ物(差し歯)や仮歯がとれた状態で長期間放置してしまうと、周囲の歯が移動してしまい歯並びが悪化します。

歯並びが悪くなってしまうと、元に戻すために矯正治療が必要になったり、最悪の場合歯を抜歯しなければいけなくなったりします。

むし歯になる

被せ物(差し歯)や仮歯がとれた状態では、歯の内部が口腔内に直接露出しています。歯の内部はむし歯に弱いため、急速にむし歯が進行してしまうことがあります。

抜歯しなければいけなくなる

早急に歯医者を受診すれば残せた歯も、長期間放置することで抜歯となることがあります。

痛みの有無にかかわらず、被せ物(差し歯)や仮歯がとれた際には、できる限り早めに歯医者を受診しましょう。

まとめ

被せ物(差し歯)や仮歯が外れてしまう原因や、その際の応急処置についてさまざまな方法を説明しましたが、最終的には歯医者での診療が不可欠です。

被せ物(差し歯)や仮歯の負担になる行動を避け、歯に問題がないか定期的にチェックすることも大切です。

ポリグリップでは応急処置であっても、公式に使用が禁止されています。すぐに歯医者を受診できない場合には、マスクを着用するなどして、口元を隠すのも選択肢となるでしょう。

被せ物(差し歯)や仮歯の再装着費用は、約200〜5,000円と状況によって幅があります。

Q&A

「差し歯や仮歯がとれたときの応急処置」に関連する質問を集めました。

差し歯が取れてから何日以内につけ直さないといけないですか?

できる限り早く付け直したほうがよいでしょう。差し歯が装着されていないということは、歯の内部の組織が口腔何に露出していることを意味します。唾液中の細菌が歯の内部の深くまで再感染してしまうと、根管治療からやり直さなければいけません。不要な治療を増やさないためにも迅速に歯科医院を受診しましょう。

前歯の差し歯が取れた時の応急処置は?

考えられる応急処置は歯科医院の受診とマスクの着用です。ポリグリップを使用しても差し歯をくっつけることはできません。

差し歯をアロンアルファでくっつけるとどうなる?

しっかりと接着することはないでしょう。歯科医師が差し歯を装着する際には、接着面の汚れを全て除去し、適切な接着剤を、適切な量使用し、接着面を乾燥させます。これらの手技がご自宅かつご自身で行えるとは思えません。再治療を難しくすることにもつながりますので、アロンアルファなどの接着剤は使用してはいけません。

仮歯が取れてしまった場合どうすればいいですか?

まずは歯科医院に連絡しましょう。急患として受け入れが難しい場合もありますので、その際は受け入れてくれる歯科医院を探すのも手です。他院を受診してからかかりつけ歯科を受診する場合は、他院で仮歯を付け直した旨を伝えるとスムーズです。

仮歯は何年くらい持ちますか?

仮歯の生存率は不明です。仮歯はあくまでも仮歯ですので、歯科医師の判断の下、使用期間を決定します。少ない本数の場合は1か月程度の使用期間となることがありますし、複数本におよぶ全顎的な治療を行う場合には年単位で仮歯を使用する場合もあります。

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