入れ歯の基本情報
入れ歯とは、歯の代わりをするための取り外しができる治療装置です。
本項では、総入れ歯と部分入れ歯の慣れや違和感について知る前に、入れ歯の基本情報を簡単に説明します。
入れ歯とは?
入れ歯は、失った歯の代わりに「かむ・話す・見た目を整える」役割を果たす取り外し式の装置です。専門的には欠損補綴(けっそんほてつ)装置と呼ばれます。
入れ歯の最大の特徴は、患者さん自身で取り外しができるという点です。入れ歯以外の欠損補綴装置であるブリッジやインプラントは、原則患者さんには取り外すことはできません。
費用はさまざまな条件に影響を受けるため一概には言えません。保険治療で作る小さい部分入れ歯であれば5,000円程度ですが、自費治療で作る総入れ歯は100万円以上かかる場合もあります。
治療期間は最短で約2週間、長い場合には3〜6か月ほどかかります。
総入れ歯と部分入れ歯の違い

総入れ歯は歯が残っていない場合に使用する入れ歯です。上顎または下顎のどちらかに歯が一本もない場合や、上下どちらも歯が全くない場合が対象です。総入れ歯では歯がないため、歯ぐきの上に総入れ歯を吸着させて維持します。
部分入れ歯は残っている歯を支えにする入れ歯です。総入れ歯とは異なり、歯ぐきだけで入れ歯を支えるのではなく、クラスプという装置を使用して、残った歯にしがみつくような形で維持します。
総入れ歯にも部分入れ歯にも必ずある構造は、床(しょう)と人工歯(じんこうし)です。床はピンク色の歯ぐき部分のパーツで、人工歯は白色の歯のパーツです。
入れ歯の詳しい構造については下記の記事をご覧ください。

部分入れ歯と総入れ歯で生じる違和感・慣れない感覚とは?
入れ歯の違和感・慣れない感覚の種類
入れ歯の違和感・慣れない感覚は人によって異なります。
代表的には、口の中に異物が入っていることが気になってしまう異物感、当たりによる痛み、発音や食事のしにくさ、吐き気などがあります。
まずは、入れ歯ではどのような違和感・慣れないような感覚が生じるのかを見ていきましょう。
異物感
異物感は、「口腔内に本来ない物体が存在することによる不快感」だといえます。
なぜ、総入れ歯や部分入れ歯は異物感を生じてしまうのでしょうか?
例えばインプラントでは、失った歯の部分に歯のパーツ(上部構造)のみが再建されます。しかし入れ歯治療では、人工歯だけでは口腔内で十分に機能させることができないため、歯以外のパーツである床やクラスプなどが必要です。
本来は口腔内にないものが存在することが異物感につながる大きな原因です。

入れ歯という治療法自体に異物感はつきまといます。ですが、床のサイズが大きすぎたり、床の厚みが厚すぎたりするとより異物感は大きくなります。
痛み
痛みは「慣れ」の問題ではなく、入れ歯によって粘膜が傷ついているサインです。
新しい入れ歯では歯ぐきと強くあたってしまうことがありますので、数回の調整を行って改善させていくのが基本です。痛い場所を伝えられるよう、食事や会話でどこが当たるかをメモして受診すると診療がスムーズです。
話しにくさ
入れ歯を使うことで、「話しにくさ」、「しゃべりにくさ」、「滑舌の悪さ」が生まれることがあります。
そもそも、音にはいろいろな作り方があります。
| 音 | 日本語の例 | 関与する部位 |
|---|---|---|
| s,t,d,n,l | サ行、タ行、ダ行 | 舌と口蓋 |
| th | – | 舌と歯 |
| f,v | – | 口唇と歯 |
| b,p,m | バ行、パ行、マ行 | 口唇 |
thやf,vは日本語では使用しない音で、b,p,mは唇で作る音なので入れ歯の影響は大きくありません。入れ歯によって違和感を生じやすい日本語の音は、s,z,t,d(サ行、ザ行、タ行、ダ行)です。

入れ歯の厚みや人工歯の並びが不適切だと、舌と入れ歯の接触がうまくいかず、話しにくさを感じてしまいます。話しにくさに大きく影響するのは、下よりも上の入れ歯です。
かみにくさ
かみにくさは、食事を食べにくいと感じる違和感ですが、原因はさまざまです。
「今まで食べられていた食品を食べられなくなった」、「食事にかかる時間が長くなった」、「前歯で食べものをかみ切れない」、「入れ歯が外れてしまってかめない」など、患者さんによってどうして「かめない」と感じるのかは違います。
不適切な入れ歯を使用している場合は、当然かみにくさを感じます。外れやすい入れ歯では、満足に食べることはできません。
しかし、入れ歯という治療の特性上、適切な入れ歯であっても、自分の歯と全く同じようにはかめません。
天然歯列に比べ、(下顎骨高が低い)上下顎総義歯では、最大片側咬合力はおよそ1/3程度で、試験食品を半分の粒径にするのに必要な咀嚼回数は約6.6〜7.6倍であったとするデータがあります。
Biting and chewing in overdentures, full dentures, and natural dentitions
吐き気
吐き気は上顎の総入れ歯で起こりやすく、後方の縁が長い、厚い、舌が触れて敏感になるなどが関係します。最初は短時間から装着し、慣れるトレーニングを行うのが基本ですが、強い嘔吐反射がある人は入れ歯の形態調整で改善できることもあります。
吐き気が出現する頻度は分かっていませんが、口腔内の過敏性によっては嘔吐反射が出現することもあります。
入れ歯の違和感・慣れない感覚の出現率
違和感は「出るのが普通」と考えたほうが安全です。新しい入れ歯は完成品ではなく、実際に使って初めて当たりや噛み合わせの癖が分かります。多くの人が数回の調整を前提にしており、痛みや外れやすさが出たら受診して微調整を重ねることで生活に馴染ませていきます。
下の総入れ歯では、入れ歯装着後3か月で約4割の患者さんがまだ「慣れていない」と感じているデータもあり、完全に慣れるためにはある程度の期間が必要なことが分かります。
Incidence and risk factors for non-adaptation of new mandibular complete dentures: a clinical trial
違和感・慣れない感覚を引き起こす入れ歯の特徴
「慣れるまで我慢」と「形が合っていない」は別問題です。
違和感が強い入れ歯には、形態の過不足、床の厚み、歯ぐきとの不適合、歯ぐきの変化でできた隙間、噛み合わせのズレ、乾燥など、はっきりした原因が隠れていることがあります。
原因を見つけて調整すれば、慣れるまでの時間を短縮でき、食事や発音の慣れも早くなります。
入れ歯の形が間違っている・入れ歯が大きい
入れ歯が大きすぎると、頬や舌の動きを邪魔して異物感、話しにくさ、吐き気を招きます。一方で入れ歯が小さすぎても外れやすい入れ歯になってしまい、不安定な入れ歯が違和感につながります。
大きくもなく、小さくもなく、適切な大きさの入れ歯を作ることが、違和感や慣れない感覚を防ぐためには必要です。
入れ歯が厚い
入れ歯の床が厚いと違和感が強く生じることがあります。舌のスペースが減り、発音や飲み込みへの影響が出やすくなります。
保険の入れ歯では強度確保のため厚みが必要な場面もありますが、慣れるのに時間がかかってしまうかともあります。厚みの調整は限界があるため、金属床義歯などの薄くできる入れ歯に変更することも選択肢です。
入れ歯と歯ぐきが合っていない
入れ歯と歯ぐきが合わないシーンは二場面考えられます。
まずは、新しい入れ歯を製作した直後です。入れ歯は製作過程で必ず変形が生じます。変形した入れ歯の調整が不足している場合、入れ歯と歯ぐきが強くあたって痛みがでます。
次に、長期間入れ歯の調整をしていない場合です。歯や歯ぐきの状態は日々変換しています。入れ歯を製作した直後には良好に適合していた入れ歯も、徐々に合わなくなってきます。合わない入れ歯を使用していると、徐々に痛みが生じてきます。
歯ぐきがやせて隙間ができている
入れ歯を作った後も、顎の骨と歯ぐきは少しずつ変化します。すると、以前は合っていた入れ歯に隙間ができ、外れやすくなったり、食べものが入れ歯と歯ぐきの間に挟まるなどの違和感が増えます。
かみ合わせ調整が足りない
噛み合わせの調整が不適切だと、食べものを食べる際に痛みがでたり、入れ歯が外れやすくなったりする場合があります。
上下の入れ歯がしっかりかみ合っていても、かみ合わせの高さが高い場合には、かむ力がうまく発揮できなかったり、発音に障害がでたりすることもあるのです。
入れ歯の人工歯は長期間使用するとする減っていきます。装着直後は適切なかみ合わせであっても、時間経過とともにかみ合わせが悪くなり、かみ合わせも低くなっていきます。
口が乾燥している
唾液は入れ歯の安定や発音に重要です。
口が乾燥すると唾液を介して入れ歯と歯ぐきを密着させることができず、入れ歯が外れやすくなります。高齢者や服薬の副作用、口呼吸などで口腔乾燥は起こりやすいです。
口腔が乾燥してしまうと、唇や頬が入れ歯がくっついてしまい、発音をわるくしてしまうことも考えられます。
違和感を放置することのリスク
違和感を放置すると、痛みが慢性化して食事が十分にとれないだけでなく、入れ歯自体への拒否感が強くなります。
部分入れ歯では無理なかみ方をすることで、残った歯に負担が集中し、ぐらつきや破損につながることもあります。総入れ歯でも、当たりを我慢して使い続けると歯ぐきが腫れてしまい、さらに入れ歯が不安定になることもあります。
入れ歯の違和感には早めに対処することが重要です。
部分入れ歯と総入れ歯の違和感には慣れるには
総入れ歯と部分入れ歯に慣れるまでの期間
入れ歯の違和感に慣れ、痛みが軽減しや日常生活で「使える」と感じるまでには数日〜数週間必要で、食べものをかむ動作が安定するまでには概ね3か月、条件が悪い場合にはでは6か月程度をかかる場合もあります。
総入れ歯と部分入れ歯に慣れるための方法
慣れの近道は、正しい方法で「使う練習」をすることです。
入れ歯を避け続けると、いつまでも違和感が残ります。一方、痛みを我慢して長時間使うと傷が悪化します。
歯科で入れ歯のあたりを整えた上で、無理のない範囲で装着時間と食事の難易度を徐々に上げるのが最も効率的です。
慣れるための時間を確保する
入れ歯は「特別な日にだけ使う」より、日常の中で使う時間を確保したほうが慣れが早いです。短時間でも毎日触れることで、舌や頬の動きが入れ歯に合わせて学習します。
ただし痛みがある状態での我慢は逆効果なので、まずは歯科で調整してから練習を始めます。仕事や外出の予定に合わせ、家で練習できる時間を作るのがコツです。
装着時間を徐々に延ばす
入れ歯製作直後は、一日中の使用には違和感が強くでることもあるでしょう。
まずは数時間から始め、問題がなければ徐々に延ばすと、入れ歯に慣れるまでの負担が減ります。違和感が強い日は無理せず、少しずつ慣れるようにしていきましょう。
まずは家の中で使う
外出先で外れたり痛んだりすると心理的ハードルが上がります。
まずは家の中で、会話や水分摂取、軽い食事などから始めると安心です。慣れてきたら外出先での使用を始めます。
小さく柔らかいものから食べてみる
食事は、最初から硬い物に挑戦すると痛みや外れやすさが出やすく、違和感が強くでます。
小さく切った柔らかい食べ物から始め、奥歯を使ってかむことを意識すると、入れ歯の安定が良くなります。総入れ歯は前歯で噛み切る入れ歯が外れやすいので、箸やナイフなどで食品を小さくしてからかむことが有効です。
奥歯を使ってかむ練習をする
前歯で食べものをかみ切る動きは入れ歯を持ち上げる力になり、総入れ歯では特に外れやすくなります。奥歯でかむように意識すると、入れ歯が安定しやすく、違和感も出にくくなります。
発声練習をする
発音は「慣れ」の要素が大きいので、短時間でも毎日声を出す練習が効果的です。新聞や本を音読することで、舌の位置や息の出し方が入れ歯に合わせて調整されます。
会話中にカチカチ当たる、空気が漏れるなどが続く場合は、歯の位置や床の厚みが関係していることがあるため、練習と並行して歯科での調整を受けると改善が早まります。
どうしても入れ歯に慣れない場合の対応
一定期間使っても「痛くて食事ができない」「外れて会話にならない」なら、慣れの問題ではなく治療側の再評価が必要です。
合わない入れ歯は、調整で改善できるケースと、設計から作り直したほうが早いケースがあります。自費の選択肢や、入れ歯以外の治療法が適する場合もあるため、状態と希望を整理して歯科医師と相談し、最短で生活に戻れる道を選びましょう。
かかりつけの歯医者を受診する
まずは作った医院で診療を受け、当たりや噛み合わせ、着脱の方法を確認します。入れ歯は微調整で劇的に楽になることもあり、受診のタイミングが早いほど粘膜の傷も小さく済みます。
痛みがある場所、外れる場面、食べにくい食べ物などを具体的に伝えると原因が絞れます。調整後は「慣れるまで」の期間を作るのが目的です。
入れ歯に専門性がある歯医者を受診する
調整を重ねても改善しない場合、設計そのものの見直しが必要かもしれません。
入れ歯治療に慣れたクリニックでは、かみ合わせの再構成や床の形態、部分入れ歯なら支えの歯の負担配分など、根本から組み立て直す提案ができます。
特に総入れ歯は技術差が出やすいため、専門性のある歯科で評価を受けると解決が早いことがあります。
自費治療の総入れ歯を検討する
保険の入れ歯でも十分使えることは多い一方、厚みや材料の制約で違和感が残るケースがあります。
自費の総入れ歯では設計の自由度が高く、薄さや熱の伝わりやすさ、安定性に配慮した作製が可能です。費用はかかりますが、食事や発音のストレスが大きい人では費用対効果が高くなる場合があります。
必ず事前に見積もりと方針を確認しましょう。
入れ歯以外の治療法を検討する
部分入れ歯が合いにくい場合、ブリッジやインプラントが適することがあります。
総入れ歯で安定しない場合でも、少数のインプラントで入れ歯を固定する方法が選べることがあります。ただし外科処置や費用、全身状態の条件があるため、医者の解説を聞いた上で判断します。
「入れ歯に慣れない=失敗」ではなく、別の治療法もあると知っておくと気持ちが楽です。
総入れ歯と部分入れ歯に慣れたあとにやること
入れ歯の定期的な調整
慣れた後も、入れ歯は放置すると合わなくなります。
顎の骨と歯ぐきは少しずつ変化し、総入れ歯は吸着が落ち、部分入れ歯は支えの歯に負担が増えやすくなります。外れやすい、痛い、食べ物が挟まるといったサインが出たら早めに調整を受けると、修正の規模が小さく済みます。
定期受診は「今の快適さ」を維持するために必要です。
入れ歯の毎日のケア
入れ歯の清掃は、粘膜の炎症を防ぐために重要です。
毎日m入れ歯用ブラシと入れ歯洗浄剤で汚れを落とし、部分入れ歯の場合は、残った歯も清掃して清潔を保ちます。特に夜間も入れ歯を入れっぱなしにすると、口腔カンジダなどによる炎症が起こりやすいことが報告されており、就寝時は外して粘膜を休ませる習慣が安全です。
入れ歯を正しく保管する
入れ歯は乾燥すると変形やひび割れの原因になります。就寝時など外している間は、水などで湿潤を保ちながら保管するのが基本です。
熱湯は変形のリスクがあるため避け、洗浄剤を使う場合も製品の指示に従います。入れ歯が割れたり変形したりすることを防ぐため、入れ歯用のケースで常に保管すると安心です。


