部分床義歯を製作する際、安定した維持力を実現するために欠かせないのが「クラスプ」です。クラスプにはさまざまな種類が存在し、それぞれ素材や構造によって特徴や適応症例が異なります。
この記事では、実際に臨床で用いられる主要なクラスプの種類や特徴について、歯科医師が分かりやすく解説します。
- クラスプの分類
- メタルクラスプとノンメタルクラスプの種類
- クラスプに使用される材料の種類
「部分症義歯のクラスプの種類」の結論
クラスプの種類は、まずメタルクラスプとノンメタルクラスプ(レジンクラスプ)に分けられます。メタルクラスプはさらに、ワイヤークラスプ、コンビネーションクラスプ、キャストクラスプに分けられます。

メタルクラスプに用いられる主な金属は、白金加金、金銀パラジウム合金、コバルトクロム合金、チタン合金です。ノンメタルクラスプに用いられる樹脂には、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリカーボネイト系、アクリル系、ポリオレフィン系などがあります。
メタルクラスプには、ワイヤー単純鉤、エーカースクラスプ、双歯鉤(そうしこう)、リングクラスプ、RPIクラスプ、ローチクラスプ、ハーフアンドハーフクラスプ、バックアクションクラスプ、リバースバックアクションクラスプ、ヘアピンクラスプなどがあります。
クラスプの大分類
クラスプは大きく分けて「メタルクラスプ」と「ノンメタルクラスプ(ノンクラスプ)」の二つに分類されます。さらに、形状によって「一腕鉤(単純鉤)」と「二腕鉤(にわんこう)」に分けられます。
メタルクラスプ
メタルクラスプは金属を用いたクラスプです。メタルクラスプはさらに三種類に分けられます。

ノンメタルクラスプ(ノンクラスプ)
ノンメタルクラスプは金属の代わりに樹脂を使用したクラスプです。使用する材料によって、いくつものノンメタルクラスプがあります。
世間ではノンクラスプと呼ばれることが多いですが、クラスプがないわけではありませんので、不適切な呼称です。正確には「ノンメタル=金属以外」でできたクラスプという意味の、ノンメタルクラスプが適切です。レジンクラスプとも呼ばれます。
一腕鉤(単純鉤)と二腕鉤
クラスプは鉤腕の数によって「一腕鉤(単純鉤)」と「二腕鉤」に分けられます。一腕鉤はその名の通り、唇側のみに一つの鉤腕が走行する構造です。二腕鉤は、唇側と舌側の両方から歯を挟むように二つの鉤腕が走行します。
メタルクラスプに使用される金属の種類
部分床義歯で使用される主な金属は、白金加金、金銀パラジウム合金、コバルトクロム合金、チタンの4種類です。近年ではフレームワークへのジルコニアの活用も研究されています。
それぞれの種類の特長をみていきましょう。
白金加金
白金加金は、金に白金を加えた貴金属合金です。クラウンブリッジに用いられることが多いですが、部分床義歯に使用されることもあります。
そのほかの種類の金属と比べると、金属の色調が口腔内に比較的なじみやすく、「金」というネームバリューもあることから選択される場合があるようです。
石福金属工業が製造しているPGA-21という白金加金の組成と物理的性質を以下に示します。
成分 | 金 | パラジウム | 銀 | 白金 | 銅 |
---|---|---|---|---|---|
含有率 | 76.5% | 3% | 9% | 1% | 9.5% |
項目 | 耐力 | 伸び | ビッカース硬さ |
---|---|---|---|
値 | 285MPa | 43% | 170HV |

残念ながら、筆者は白金加金床の経験はありません。一度は経験したいものです。
金銀パラジウム合金
金銀パラジウム合金は、主にインレーやクラウンに使用される金属ですが、部分床義歯に使用される場合があります。
特別な設備がなくてもキャストできる点と、コバルトクロム合金に比べるとチェアサイドでの調整が容易な点がメリットです。近年では金属価格の上昇から使用されることは減少しているのではないでしょうか。
保険治療でも使用できる種類の金属ですが、金属代が高額なため、患者負担も高くなってしまうデメリットがあります。
GCから販売されている金銀パラジウム合金である、キャストウェルM.C.金12%の組成と物理的性質を以下に示します。
成分 | 金 | パラジウム | 銀 | 銅 |
---|---|---|---|---|
含有率 | 12% | 20% | 46% | 1% |
項目 | 耐力 | 伸び | ビッカース硬さ |
---|---|---|---|
値 | 804MPa | 3% | 280HV |
コバルトクロム合金
コバルトクロム合金は、部分床義歯において最もよく用いられる金属の種類です。
強度に優れ、軽量でありながら薄くできる点が特徴です。また耐食性も高く、長期的な使用にも適しています。コストパフォーマンスにも優れた金属です。
鋳造するためには特別な装置が必要になるため、小規模の技工所ではキャストクラスプのコバルトクロム合金を受注していない場合もあります。
株式会社松風から販売されているコバリオンEXの組成と物理的性質を以下に示します。
成分 | コバルト | クロム | モリブデン |
---|---|---|---|
含有率 | 60.6% | 33.0% | 5.0% |
項目 | 耐力 | 伸び | ビッカース硬さ |
---|---|---|---|
値 | 620MPa | 20% | 345HV |
チタン合金
チタン合金は生体適合性に非常に優れ、金属アレルギーの心配が少ない金属です。非常に軽く丈夫で、耐蝕性も極めて高いため、インプラント体にも使用されています。
一方で加工が難しい材料でもあり、現在では鋳造やCAD/CAMによるミリング、積層造形などのさまざま手法を用いた技工が行われています。
YAMAKIN株式会社から販売されている、KZR-CAD Ti Gr.5の組成と物理的性質を以下に示します。
成分 | チタン | アルミニウム | バナジウム |
---|---|---|---|
含有率 | 88.0% | 6.0% | 4.0% |
項目 | 耐力 | 伸び | ビッカース硬さ |
---|---|---|---|
値 | 795MPa | 10% | 250HV |
主なワイヤークラスプの種類
ワイヤークラスプは、細い金属線を使って作られるクラスプです。柔軟性が高く歯に優しい構造であることが特徴で、状態が悪い鉤歯のクラスプとして利用されています。
代表的な種類として、ワイヤー単純鉤、ワイヤーエーカースクラスプ、ワイヤー双歯鉤、ワイヤーリングクラスプが挙げられます。
ワイヤー単純鉤
ワイヤー単純鉤は、主に前歯部に使用されます。鉤歯の状態が悪い場合や、アンダーカットが強くキャストクラスプでは対応が難しい場合にも適用できます。
キャストクラスプを走行させると審美障害が強く出てしまうシーンでは、より歯頚部を走行し、鉤腕が細いワイヤークラスプが有用です。
ワイヤーがあればチェアサイドでも作製でき、屈曲や修理も簡単です。舌側はレジンで押さえることが多いため、鉤歯が抜歯になった際には増歯が容易です。


ワイヤーエーカースクラスプ
ワイヤーエーカースクラスプは、頬側と舌側に二つの鉤腕が走行するワイヤークラスプです。臼歯部に用いられ、鉤歯の状態が悪い場合や、アンダーカットが強い場合に使用されます。
実際の臨床では、最終義歯に使用されることはまれです。筆者も最終義歯には使用したことがなく、治療用義歯で用いることがある程度です。


ワイヤー双歯鉤
ワイヤー双歯鉤は、ワイヤーエーカースクラスプが二つ合わさったような形態のクラスプです。臼歯部に用いられ、鉤歯の状態が悪い場合や、アンダーカットが強い場合に使用されます。
パラタルバーと併用されることも多く、レストはない場合が多い印象です。鉤体が鉤歯の咬合面を走行するため、レストの役割を果たしますが、歯間離開のリスクを伴います。


ワイヤーリングクラスプ
ワイヤーリングクラスプは、歯を円状にぐるりと囲むような形で作られる種類のクラスプです。最後方臼歯に適用されます。
ワイヤーが長いため、維持力の調整が容易である反面、クラスプの変形には注意が必要です。


コンビネーションクラスプの種類
維持腕はワイヤークラスプ、拮抗腕はキャストクラスプを使用したクラスプ。一般的にはレストと拮抗腕をワンピースでキャストし、ワイヤークラスプは鑞着するか、レジン床に固定します。
支持と把持はキャストした剛性のあるパーツに任せ、頬側のワイヤーに最小限の維持を求めます。状態が悪い鉤歯やアンダーカット量が不適切な鉤歯に維持を求めなければいけない場合や、審美的配慮のために使用されます。
保険治療では、レストのみをキャストした場合でもコンビネーション鉤246点の算定が認められています。保険治療では非常に使い勝手の良いクラスプです。


主なキャストクラスプの種類
キャストクラスプは鋳造(金属を型に流し込む方法)によって作製されるクラスプで、多様な形状が可能な点が魅力です。部分床義歯において最もスタンダードな維持装置として利用されており、種類ごとに適応症例や特徴が異なります。
代表的なキャストクラスプの種類について紹介します。
キャストエーカースクラスプ
キャストエーカースクラスプは、最もスタンダードな種類の鋳造クラスプで、片側から歯にしっかり抱きつく形が特徴です。
筆者の臨床では、臼歯部の大部分にキャストエーカースクラスプを使用しています。


キャスト双歯鉤
キャスト双歯鉤は、隣り合う2本の歯に同時にクラスプがかかる種類のキャストクラスプです。2本の鉤歯をクラスプによって連結することで、二次固定効果を発揮します。
歯間部咬合面を鉤体が走行するため、歯冠離開のリスクがあります。キャストクラスプにする場合、レストシートを形成することで、楔状に鉤体が押し込まれるのを防ぎます。
双歯鉤は負担がかかるクラスプでもあります。自費治療の部分床義歯では、パラタルバーより幅広く、パラタルストラップ様に連結子を走行させることが多いです。


キャストリングクラスプ
キャストリングクラスプは、歯の周囲を360度囲うような環状構造を持った種類のクラスプです。最後方孤立歯に適用されます。
模式図はワイヤーリングクラスプと同様です。
RPIクラスプ
RPIクラスプは、遊離端欠損に適応される種類のキャストクラスプです。R(mesial Rest)は近心レスト、P(Proximal plate)はプロキシマルプレート、I(I bar)はIバーを意味します。
プロキシマルプレートはガイドプレーンに適合する構造です。Iバーはローチクラスプの一種です。


ローチクラスプ・Iバー
ローチクラスプは、歯肉側から鉤尖が立ち上がってくるインフラバジルクラスプです。鉤腕の大部分が歯冠と接触しないため、自浄性や審美性に優れていると考えられています。
鉤尖の形態からT型、I型、L型などに分類されます。ローチクラスプのI型がIバーです。


主なノンメタルクラスプの種類
ノンメタルクラスプは金属を使用しないため、審美性が非常に高く、近年人気が高まっています。代表的な素材にはポリアミド系、ポリエステル系、ポリカーボネイト系、アクリル系、ポリオレフィン系などがあり、それぞれ異なる特徴を持っています。
ポリアミド系
ポリアミド系は、ナイロン樹脂を原材料とした種類のノンメタルクラスプです。繰り返しの着脱でも壊れにくいメリットがあります。一方で修理が難しいことがデメリットでしたが、近年では適切な表面処理により修理が可能になってきています。
商品名としては、株式会社ユニバルが輸入代理店をしているバルプラストがポリアミド系の樹脂です。
Influence of thickness and undercut of thermoplastic resin clasps on retentive force
ポリエステル系
ポリエステル系は、常温重合レジンと接着する種類の樹脂です。着脱による劣化には注意が必要な場合がありますが、繰り返しの疲労による変形は少ないというデータもあります。
商品名としては株式会社ニッシンが販売しているエステショットブライトが該当します。
The effect of cycling deflection on the injection-molded thermoplastic denture base resins
ポリカーボネイト系
ポリカーボネイト系は、強度が高い樹脂です。常温重合レジンとの接着も良好です。
商品名としては、デンケン・ハイデンタル株式会社が販売するジェット・カーボがあります。
まとめ
クラスプには素材や形状によってさまざまな種類が存在します。クラスプの種類を覚えるときは、まずは分類を覚え、それからひとつひとつのクラスプの名称を覚えると簡単です。
実臨床で使用するクラスプは非常に少ないですが、知識として持っている分には損はありません。クラスプの概要について知りたい方は下記の記事が参考になります。


Q&A
「部分床義歯のクラスプの種類」に関連する質問を集めました。
- キャストクラスプとワイヤークラスプの違いは?
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キャストクラスプはワックスアップしたクラスプを埋没・鋳造(キャスト)して作ります。ワイヤークラスプは既成のワイヤーを屈曲して使用します。ワイヤークラスプには、主にコバルトクロム合金ワイヤーが用いられます。
- コンビネーションクラスプとは何ですか?
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コンビネーションクラスプは拮抗腕やレストをキャストし、頬側は既成のワイヤーを用いるクラスプです。キャストクラスプとワイヤークラスプのコンビネーションによるクラスプです。
- 歯科のクラスプには何種類ありますか?
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クラスプは無数にあります。大きく分けるとメタルクラスプとノンメタルクラスプ(レジンクラスプ)があります。
- メタルクラスプとは何ですか?
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メタルクラスプとは金属によって作られたクラスプです。メタルクラスプには、キャストクラスプ、コンビネーションクラスプ、ワイヤークラスプがあります。