部分入れ歯のお手入れは毎日必要?義歯清掃の正しい方法と頻度

入れ歯ナビ:部分入れ歯のお手入れは毎日必要?
遠藤眞次
この記事の執筆者
歯科医師兼歯科専門ライター。東京都池袋の歯医者「グランドメゾンデンタルクリニック」で診療しています。

専門家がおすすめする、部分入れ歯や総入れ歯のお手入れの頻度が知りたくありませんか?

本記事では、「入れ歯のお手入れが毎日必要か?」という疑問に歯医者が答えます。入れ歯のお手入れ方法と正しい頻度を知って、入れ歯をきれいに使いましょう。

本記事で学べる歯科知識
  • 入れ歯のお手入れの頻度
  • 入れ歯のお手入れを怠るリスク
  • 毎回・毎日・定期的にやる入れ歯のお手入れ内容
目次

1分でわかる!部分入れ歯のお手入れは毎日必要か?

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部分入れ歯のお手入れは毎日必要です。入れ歯は必ず毎日清掃しましょう。
部分入れ歯の毎日のお手入れを怠ると、義歯性口内炎、口腔カンジダ症、口臭、むし歯、歯周病、誤嚥性肺炎のリスクが上がります。
毎日の部分入れ歯のお手入れは、機械的清掃と化学的清掃を組み合わせます。
部分入れ歯の正しいお手入れの頻度は、やる内容によって異なります。毎回やる機械的清掃、毎日やる化学的洗浄、定期的に行う専門的な清掃や入れ歯の調整などがあります。

入れ歯のお手入れは毎日必要です。

毎食後には少なくとも水で入れ歯をすすぎ、一日一回は徹底した入れ歯お手入れを行います。入れ歯の汚れであるデンチャープラークがこびりついてしまうと、簡単には落とせなくなってしまいます。入れ歯用ブラシを用いた機械的清掃と、入れ歯洗浄剤を使った化学的洗浄を併用して、入れ歯についた汚れを毎日落とすことが大切です。


入れ歯のお手入れを怠ってしまうと、義歯性口内炎口腔カンジダ症誤嚥性肺炎の発症リスクが上昇する可能性があります。毎食後のケア、毎日のケア、定期検診を実践し、健康なお口を目指しましょう。

部分入れ歯のお手入れは毎日しなくても良い?

入れ歯の手入れは、お口の健康を保つために非常に重要です。

天然の歯と同じように、入れ歯にも食べかすやプラークが付着します。これを毎日きちんと取り除くことで、入れ歯んを清潔に保ち、長持ちさせることができます。

入れ歯のお手入れ不足は、さまざまなトラブルの原因となるため、毎日のケアが必要不可欠です。

部分入れ歯を毎日お手入れしないとどうなる?

入れ歯の毎日のお手入れを怠ってしまうと、入れ歯に汚れが付着してしまいます。入れ歯に付着した汚れは、デンチャープラークと呼ばれ、時間がたつにつれて簡単には落とせない頑固汚れになってしまいます。 

プラークは細菌のかたまりで、自分の歯(天然歯)にも、入れ歯にも付着します。天然歯に付着するプラークに比べて、デンチャープラークでは真菌類(カビ)の占める割合が大きいことが分かっています。また、デンチャープラークには、胃潰瘍や胃癌とも関わりがあるピロリ菌も検出されています。

毎日のお手入れを行わないと、デンチャープラークがたまってしまい、さまざまな問題を引き起こします。正しいお手入れの頻度と方法を守ることが大切です。

歯科補綴学専門用語集第6版

みんなは入れ歯を毎日お手入れしているのか?

平成8〜9年にかけて、入れ歯のお手入れに関するアンケート調査が行われました。対象は高齢者施設に入所する2,826名です。

入れ歯のお手入れの頻度を、「清掃しない」、「時々」、「毎日」、「毎食後」、「その他」の5段階に分けて調査しました。その結果は以下の通りです。

入れ歯のお手入れの頻度は、清掃しないが3%、時々が10%、毎日が53%、毎食後が33%、その他が2%です。
入れ歯のお手入れの頻度に関するアンケート結果。清掃しないが3%、時々が10%、毎日が53%、毎食後が33%、その他が2%です。小数点以下は四捨五入しています。

一日に少なくとも一回以上入れ歯をお手入れしている人の割合は、「毎日」+「毎食後」=86%です。ほとんどの方が、毎日入れ歯のお手入れを行っていることがわかります。

高齢者施設における歯科口腔保健実態調査

毎日の部分入れ歯のお手入れを怠ると起きやすいトラブル

入れ歯のお手入れを怠ることで、入れ歯そのものだけでなく、全身の健康にトラブルが生じます。

お口に対する悪影響として、義歯性口内炎や口腔カンジダ症などが挙げられ、全身への悪影響として誤嚥性肺炎が挙げられます。

入れ歯を毎日お手入れして予防 ①│義歯性口内炎

義歯性口内炎(ぎしせいこうないえん)とは、真菌類(カビ)などの感染により、入れ歯と接触する歯ぐきに口内炎ができてしまう病気です。

入れ歯のお手入れを行わないと、入れ歯にデンチャープラークがたまり、義歯性口内炎になりやすくなることがわかっています。

義歯性口内炎の臨床的研究 第2報 義歯の取り扱いと義歯性口内炎との関係

入れ歯を毎日お手入れして予防 ②│口腔カンジダ症

口腔カンジダ症は、カンジダ菌によって引き起こされる感染症です。カンジダ菌は健康な人の口腔内にも存在し、その割合は3~75%といわれています。

加齢や病気などによって全身状態が悪化し、カンジダ菌が口腔内で増殖すると、口腔カンジダ症が発症します。症状としては、口腔粘膜の発赤(赤く腫れる)や痛み,味覚異常などが生じます。

口腔内のカンジダ菌は、入れ歯を使用していない方に比べて、入れ歯を使用している方に多く見つかります。入れ歯を使用することが、カンジダ菌が増殖するリスクとなることを意味します。

入れ歯のお手入れの頻度と、口腔カンジダ症の発症率の関係性については関連が否定されていますが、毎日の正しいお手入れが必要なことには疑う余地がありません。

在宅自立高齢者における口腔カンジダ菌の保菌状態に関する調査

入れ歯を毎日お手入れして予防 ③│口臭

入れ歯に付着したデンチャープラークには、多くの細菌が含まれています。細菌の死骸や排せつ物などが悪臭を発生させ、口臭を強くします。

入れ歯を毎日お手入れして、お口の中もきれいにすることで、口臭が少なくなることが分かっています。

中性電解水を用いた義歯および口腔内洗浄による 要介護高齢者の口腔内環境の改善

入れ歯を毎日お手入れして予防 ④│むし歯

部分入れ歯を装着していると、特に入れ歯の鉤歯(こうし)がむし歯になりやすいです。

用語解説│鉤歯とは?

鉤歯(こうし)とは、部分入れ歯のクラスプがひっかかる歯です。部分入れ歯を外れにくくするために、鉤歯にはクラスプが装着されます。

ブリッジの支台歯(しだいし)が二年後にむし歯になる確率は9%であるのに対し、入れ歯の鉤歯では59%にもなります。

ブリッジと比べて、部分入れ歯はむし歯になりやすいため、毎日のお手入れが大切です。2年後にむし歯になる確率は、ブリッジで9%、入れ歯で59%です。
ブリッジの支台歯と、部分入れ歯の鉤歯が2年後にどれくらいむし歯になっているかを調べたN.J.A. Jepsonら(2001)の研究結果です(引用改変)。ブリッジの支台歯は9%しかむし歯にならないのに対し、部分入れ歯の鉤歯は59%がむし歯になってしまいます。部分入れ歯では、鉤歯の毎日のお手入れがいかに大切かわかります。
用語解説│支台歯とは?

支台歯(しだいし)とは、ブリッジの土台となる歯です。一般的には、失った歯の前後が支台歯となります。

入れ歯も鉤歯も毎日丁寧にお手入れすることで、むし歯になるリスクを下げることができます。

Restorative dentistry: Caries incidence following restoration of shortened lower dental arches in a randomized controlled trial

入れ歯を毎日お手入れして予防 ⑤│歯周病

部分入れ歯を使用すると、残った歯に汚れがたまりやすくなり、歯周ポケットが深くなりやすいです。毎日の歯磨きと一緒に、部分入れ歯も毎日お手入れしましょう。

歯磨きだけをしても、汚れた入れ歯を装着していては意味がありません。歯周病の原因菌は入れ歯にも付着しますので、お口と入れ歯の両方をきれいにして、歯周病を予防しましょう。

The effect of removable partial dentures on periodontal health of abutment and non-abutment teeth

入れ歯を毎日お手入れして予防 ⑥│誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)とは、唾液や飲食物などが誤って肺に入ってしまう(誤嚥)ことで引き起こされる肺炎です。日本においては、誤嚥性肺炎は死亡原因の第6位であり、死因の3.8%を占めています。

入れ歯を毎日お手入れすることで、誤嚥性肺炎を予防できることがわかっています。東北大学の研究結果によると、入れ歯を毎日清掃する人に比べて、入れ歯を毎日清掃しない人では、肺炎発症のリスクが1.3〜1.58倍高くなるとのことです。

入れ歯を毎日手入れする人を基準として、毎日手入れしない65歳以上の人の誤嚥性肺炎発症率は1.3倍、75歳以上に限っては1.58倍です。
入れ歯のお手入れ頻度と年齢は肺炎の発症リスクに影響を与えます。毎日入れ歯のお手入れをする人を基準として、毎日手入れをしない65歳以上は1.30倍、毎日手入れをしない75歳以上は1.58倍肺炎の発症リスクが高まります。

特に高齢では肺炎発症のリスクが高くなることが分かっていますので、年を重ねるほど毎日の入れ歯のお手入れが大切です。

令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況

Infrequent Denture Cleaning Increased the Risk of Pneumonia among Community-dwelling Older Adults: A Population-based Cross-sectional Study

毎日実践!部分入れ歯の正しいお手入れ方法

入れ歯を快適に、安全に使い続けるためには、正しい手入れ・洗浄方法を知って実践することが重要です。

日々のケアと定期的なメンテナンスで、入れ歯だけでなくお口全体の健康を守りましょう。ここでは、毎回・毎日・定期的に行うべき基本の手入れ方法について解説します。

毎回やる部分入れ歯のお手入れ

食事をするたびに、入れ歯には食べかすが付着します。そのため、食後は毎回入れ歯をはずして流水で軽くすすましょう。可能であれば、入れ歯用歯磨き粉と入れ歯用ブラシを使用して機械的清掃を行うと完璧です。

入れ歯用の歯磨き粉を使用したお手入れ法については、下記の記事をご覧ください。

部分入れ歯を使用している人は、一緒に天然歯の歯磨きとフロッシングを行いましょう。総入れ歯の場合は、お口をゆすぐようにするとよいでしょう。

毎日やる部分入れ歯お手入れ

入れ歯の毎日のお手入れとして、就寝前には必ず丁寧に入れ歯を清掃しましょう。

入れ歯のお手入れは、機械的清掃と化学的清掃に分けられます

機械的清掃とは入れ歯用ブラシで入れ歯をこすり洗いすることで、化学的清掃とは入れ歯洗浄剤で入れ歯を清掃することです。現在では、毎日一回はしっかりと入れ歯をお手入れすることが推奨されています。

日本義歯ケア学会ガイドライン

診療室における義歯洗浄と歯科衛生士による義歯管理指導の指針

定期的にやる部分入れ歯のお手入れ

部分入れ歯を使用している人は、残っている歯のクリーニングと検診のために定期的に歯医者を受診しましょう。総入れ歯の場合でも、口腔機能の確認が定期的に必要な場合があります。

入れ歯の適合具合は日々変化していきます。部分入れ歯も総入れ歯も、定期的に歯医者でチェックを受け、大きな問題が生じる前に対処していきましょう。

家庭では取り切れない入れ歯の汚れも、歯医者では落とせる場合があります。歯医者では超音波洗浄器と専門的な薬剤で入れ歯を洗浄可能です。

気になることがある場合は、遠慮せずに定期検診の際に、歯医者に相談してください。

まとめ│部分入れ歯は毎日お手入れが必要

部分入れ歯と総入れ歯は、毎日のお手入れが推奨されています。お手入れを怠ってしまうと、入れ歯の調子が悪くなるだけでなく、大きな病気にもつながってしまいます。

機械的清掃と化学的清掃を組み合わせ、毎日正しいお手入れを実践していきましょう。

Q&A

「部分入れ歯のお手入れは毎日必要か?」に関連する質問を集めました。

入れ歯のポリデントは毎日使用する必要がありますか?

ポリデントは化学的清掃に用いられる入れ歯洗浄剤です。入れ歯洗浄剤を用いた化学的清掃は、毎日行うことが推奨されています。

部分入れ歯を洗う頻度は?

部分入れ歯は毎食後お手入れするのが理想的です。毎食後が難しい場合でも、少なくとも一日一回は入れ歯用ブラシと入れ歯用洗浄剤を使用した丁寧な清掃を行いましょう。

入れ歯の洗浄は毎日するべきですか?

部分入れ歯も総入れ歯も毎日洗浄するべきです。

部分入れ歯は毎日つけるべきですか?

部分入れ歯は、毎日入れ歯洗浄剤につけ置きするべきです。最近では泡タイプのつけ置きしない入れ歯洗浄剤も販売されていますが、つけ置きタイプの方が確実に洗浄でき、コストも抑えられます。

部分入れ歯のメンテナンス頻度はどのくらいですか?

入れ歯の状態により異なりますが、一般的には3〜6か月ごとに定期検診を行うことが多いでしょう。定期検診の際には、入れ歯の状態確認だけではなく、お口の中のクリーニングも行います。

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