認知症の方が入れ歯を外さないと、「無理に外してよいのか」「ずっと入れたままで大丈夫なのか」と不安になる方は多いと思います。
結論からいうと、無理に口の中へ指を入れて外そうとするのは避け、まずは落ち着ける環境を整え、短くわかりやすい声かけで対応することが大切です。認知症では、入れ歯を外す意味が分からない、外すのが不安、そもそも外し方を思い出せない、といった理由が重なることがあります。
認知症では口腔衛生管理や意思決定、治療への協力が難しくなりやすいことが知られており、対応は「説得」よりも「理解しやすい形に整える」ことが基本です。
この記事では、認知症の基本を押さえたうえで、入れ歯を外さない理由、対応のコツ、正しい外し方とその後のケアをやさしく整理します。
- 認知症とは何か
- 認知症の方が入れ歯を外さない理由
- 認知症の方が入れ歯を外しやすい環境とは?
1分でわかる!認知症の方が入れ歯を外さないときの対応

認知症は、忘れやすくなるだけでなく、理解・判断力の低下、実行機能の低下、意思疎通の難しさなどが生じる病気です。原因は複数ありますが、アルツハイマー病が、認知症の原因の60%〜80%を占めるといわれています。
認知症の方が入れ歯を外さないときは、まず「なぜ入れ歯を外さないのか」を考えることが重要です。入れ歯を外さない原因を以下に例示します。
- 入れ歯を外す習慣がない
- 外しにくい入れ歯の設計
- 入れ歯を外すことができない
- 入れ歯が合っていなくて痛い
- 入れ歯を外すと不安
- 他人に口腔内を触られたくない
認知症の方が入れ歯を外してくれないときの対応の基本は、落ち着ける環境をつくり、短く分かりやすい声かけをし、本人ができる動作は自分でやってもらうことです。入れ歯が合っていなくて痛い場合や、入れ歯が外れにくすぎる場合などでは歯医者を受診し、調整してもらいましょう。
総入れ歯は、入れ歯と歯ぐきのすき間に空気が入るようにしながら、前歯部をつまんで手前へ倒し、後方を持ち上げる動きで外します。部分入れ歯は、クラスプ(バネ)の部分に指をかけ、上方向へ引き上げるようにして外しましょう。
認知症とは?
認知症の方が入れ歯を外さない背景を理解するには、認知症では記憶だけでなく、判断、手順理解、意思疎通、生活動作が障害されることがあると知っておくことが大切です。
こうした変化は、入れ歯を「外すべきもの」と認識すること、外し方を思い出すこと、他人の介助を受け入れることにも影響します。認知症の口腔管理では、本人の認知機能だけでなく、介護環境や支援者の関わり方も重要とされています。
認知症患者の義歯診療ガイドライン2018
認知症の人への歯科治療ガイドライン
認知症疾患診療ガイドライン2017
The neuropathological diagnosis of Alzheimer’s disease
認知症の症状と原因
認知症では、記憶障害だけでなく、理解・判断力の低下、実行機能の低下、意思疎通の難しさなどがみられます。
入れ歯を外さない行動も、単なる「わがまま」ではなく、こうした症状の現れとして起こることがあります。例えば、外す手順が分からない、今している行為の意味が分からない、不安が強くて介助を拒否する、といった形です。
原因を探らずに無理矢理対応すると、かえって抵抗や不信感が強くなることがあります。
認知症にはさまざまな原因疾患があり、アルツハイマー病、レビー小体病、血管性疾患などが代表的な原因です。その中でもアルツハイマー病による認知症は、アルツハイマー型認知症といわれ、認知症全体の60%〜80%を占めると考えられています。

認知症の方への対応方法の基本
認知症の方への対応の基本は、原因を探り、環境を整え、声かけを行い、非薬物的な対応を優先することです。
入れ歯を外さない場面でも同じで、いきなり「外しなさい」と迫るより、痛みがないか、怖がっていないか、声かけが難しすぎないか、周囲が騒がしくないかを見直す方が有効です。
認知症の方への対応では、本人の尊厳を保ちながら、できることは本人に任せ、難しい部分だけを支える姿勢が大切です。
認知症の方が入れ歯を外さない理由
認知症の方が入れ歯を外さない理由は1つではなく、習慣の問題、入れ歯の問題、入れ歯を外すという手順の障害、痛み、不安、介助への抵抗などが重なっていることがあります。

ここで大切なのは、「外さない」という結果だけを見るのではなく、なぜ外さないのかを考えることです。
入れ歯を外す習慣がない
入れ歯を外す習慣がもともと十分でない方は、認知症が加わることでさらに外さなくなりやすいです。
認知症の中でも、特にアルツハイマー病では、出来事や新しいやり方を覚えることが苦手になりやすいです。一方で、昔からの習慣や手続き記憶(くり返しで身についた動作の記憶)は比較的残りやすいことがわかっています。
入れ歯の正しいケアの方法を、普段から「いつ外すか」「どのようにケアするか」を繰り返し伝えることが重要です。その日その日で指示の内容が変わってしまうと、習慣化が難しくなってしまうので注意しましょう。
外しにくい入れ歯の設計
入れ歯が外しにくいと、本人は「外したくない」のではなく、「外せない」状態になっていることがあります。とくに部分入れ歯では、クラスプのかかり方や位置によっては、入れ歯が着脱しにくくなることがあります。
大変な行為を習慣化することは、認知症の有無にかかわらず難しいことは自明でしょう。
入れ歯を外すことができない
認知症では、入れ歯の外し方を忘れたり、手順を順番通りに行うことが難しくなったりします。
この場合は、本人に全部やらせるか全部介助するかの二択ではなく、「口を軽く開けてもらう」「唇を少し引いてもらう」など、できる部分だけ本人にしてもらうとよいでしょう。
入れ歯が合っていなくて痛い
入れ歯が合っていなくて痛いと、入れ歯を外したがらないというより、口を触られること自体を避けるようになることがあります。認知症の方では、痛みがあっても適切に表現できず、結果として口を閉じる、介助を拒否する、といった形で現れることがあります。
食事のときに顔をしかめる、頬を触る、片側だけで噛むなどの痛みのサインがないかを観察することが大切です。
入れ歯を外すと不安
認知症の方のなかには、入れ歯を外すと「何か大事なものを取られる」「外すと落ち着かない」と感じる方がいます。認知症では見当識障害(今の状況がわかりにくくなること)や不安が背景にあり、口の中の変化が安心感に影響することがあります。
この場合は、外す行為そのものより、「外したあとも安全」「すぐ戻せる」と伝えることが大切です。よくある誤りは、理由を説明せずに急に外そうとすることです。そうすると不安が強まり、次回以降ますます抵抗しやすくなります。
他人に口腔内を触られたくない
他人に口の中を触られたくないという抵抗感も、認知症の方ではよくみられます。
口の中を見られる・触られるという行為は、侵襲感や羞恥心を伴いやすく、認知症では相手の意図を理解しにくいため、介助が「攻撃」や「不快な行為」と受け取られることがあります。
認知症の方が入れ歯を外さない場合は?
認知症の方が入れ歯を外さない場合は、まず落ち着ける環境をつくり、短く分かりやすく声をかけ、本人ができることは本人に任せるのが基本です。
そして、痛みや不適合が疑われる場合は、セルフ対応だけで長引かせず、歯医者に見てもらう必要があります。食事中に外れない入れ歯はメリットではありますが、あまりにも外れにくい入れ歯はデメリットにもなります。

認知症患者の義歯診療ガイドライン2018
認知症疾患診療ガイドライン2017
Oral health for adults in care homes
落ち着ける環境をつくる
落ち着ける環境づくりは、入れ歯を外さないときの最初の対応としてとても大切です。周囲が騒がしい、急かされている、知らない人が多い、といった状況では患者さんの抵抗が強くなりやすいです。
静かな場所に移る、食後すぐなど慌ただしい時間を避ける、慣れた人が対応することは、安心感につながります。環境を整えるだけで、入れ歯を外してもらえるようになることもあります。
声かけは短く・わかりやすく
声かけは短く、1つずつ、分かりやすくするのが基本です。認知症では長い説明や複数の指示を一度に受けると、理解しにくくなります。
「今からお掃除のために入れ歯を外します」「少しお口を開けてください」「お口の中を触ります」のように、各ステップで、短くわかりやすい表現をこころがけます。
本人ができることは自分でやってもらう
本人ができることは自分でやってもらうほうが、受け入れやすいことがあります。すべてを介助するのではなく、残っている力を活かすことが大切です。
本人が入れ歯を上手に外せなかったとしても、入れ歯には触れてもらい、介助者が「一緒に外しましょうね」と伝えるような対応を心がけましょう。
介助者側の時間にも限りがありますが、時間短縮のために全部介助してしまうい、本人の参加が全くなくなると、さらに手順を忘れやすくなることがあります。
いきなり口腔内に手指を入れない
いきなり口の中に手指を入れないことは、基本です。口の中は非常に敏感で、認知症の方では何をされるか分からない不安も加わります。無理な介助は拒否や咬まれるリスクにつながり、次回以降のケアも難しくします。
拒否が強いケースでは、先に顔まわりや頬の外側から触れ、声かけしながら進めるとよいでしょう。
貼り紙などで注意喚起する
家庭や施設で、就寝前の場所に「入れ歯を外して洗う」などの短いメモを置く方法は、軽度〜中等度の認知症では実用性があることがあります。
ただし、これだけで必ず外せるようになるわけではなく、本人が読めること、意味を結びつけられることが前提です。
情報をたくさん貼りすぎると、かえって混乱の原因になることがありますので、わかりやすく短い文章を、最小限だけ貼るにとどめましょう。
入れ歯の着脱がしやすいように調整する
毎回外しにくい、介助者も難しいという場合は、入れ歯の形やバネのかかり方に改善の余地がある可能性があります。
通常の入れ歯は、あえて外れにくいように設計します。高齢の方や認知症の方にとっては、この外れにくい入れ歯がデメリットとなることもあります。
歯医者に入れ歯が外しにくいことを伝え、着脱のしやすさを調整してもらいましょう。ほどよく外れて、ほどよく外れない入れ歯を作ることは難しいので、入れ歯治療に専門性のある歯医者だと安心です。
認知症の方の入れ歯の正しい外し方とその後のケア
認知症の方の入れ歯は、外し方を間違えると痛みや強い拒否につながることがあります。
総入れ歯は空気を入れるように前歯部を手前に倒しつつ後方を持ち上げ、部分入れ歯はクラスプ(バネ)に指をかけて上に持ち上げて外します。
外した後は、入れ歯用ブラシと洗浄剤でこすり洗いし、漬け置きで除菌まで行うのが基本です。口の中も歯ブラシやスポンジブラシで歯ぐきまで清掃し、外せない・痛がる・傷や腫れがある場合は早めに歯医者へ相談しましょう。
入れ歯の正しい外し方
総入れ歯では、入れ歯と歯ぐきの間に空気を入れるようにし、前歯部を持って手前に倒しながら、後方を持ち上げるように外します。
部分入れ歯では、クラスプ(バネ)に指をかけて、上方向に持ち上げるように外します。詳しくは下記の記事をご覧下さい。

どうしても外せない、痛がる、強く嫌がる場合は、入れ歯の適合や外しやすさに問題がないか歯医者で確認してもらうのが安全です。
入れ歯を外した後のケア
入れ歯を外した後のケアでは、入れ歯そのものと口の中の両方を清掃することが大切です。
入れ歯は、入れ歯用歯ブラシと入れ歯洗浄剤で洗い、ぬめりや食べかすを落とします。その後、漬け置き用の入れ歯洗浄剤に漬けて、入れ歯を洗浄します。
入れ歯のケアでは、機械的にこすり洗いをする「機械的洗浄」と、入れ歯洗浄剤を用いて化学的に除菌・殺菌する「化学的洗浄」の併用が大切です。
入れ歯の洗浄については、下記の記事で詳細に解説しています。

口腔内の清掃は、歯がある場合には歯ブラシで行います。歯の本数が少ない場合や、歯がない場合には、歯ブラシとスポンジブラシを併用し、歯だけではなく歯ぐきも優しく拭います。
不安なことがあれば歯医者を受診しましょう
どうしても外せない、毎回強く拒否する、外すと痛がる、口の中に傷や腫れがある、介助者が安全に対応できない、などの場合は歯医者を受診しましょう。
「そのうち外してくれるかもしれない」と長く様子を見すぎるのは、危険な場合もあります。迷ったときは遠慮せず、歯医者に相談してください。
「認知症の方が入れ歯を外さないときの対応」のまとめ
認知症の方が入れ歯を外さないときは、まず無理に外そうとせず、なぜ外さないのかを考えることが大切です。
よくある理由としては、入れ歯を外す習慣がない、入れ歯が外しにくい・外し方が分からない、痛い、不安、他人に口を触られたくない、などです。認知症では口腔衛生管理や意思決定が難しくなりやすいため、行動だけを責めず、その背景を探る必要があります。
対応の基本は、落ち着ける環境、短い声かけ、本人ができることを活かすこと、いきなり口の中に手を入れないことです。
そして、外しにくさや痛みが疑われるときは、入れ歯の調整を含めて歯医者に相談するのが安全です。どうしても外せない、毎回強く拒否する、ケアが続けられない場合は、セルフ対応だけで終わらせず歯医者の受診につなげるとよいでしょう。
Q&A
「認知症の方が入れ歯を外さないときの対応」に関連する質問を集めました。
- 認知症で入れ歯を外さないとどうなる?
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入れ歯を外さないことは口腔内の不衛生につながります。入れ歯は、細菌やカビなどが繁殖する温床となります。入れ歯を外さずに正しいケアを行わないことは、義歯性口内炎や誤嚥性肺炎などのリスクを上昇させます。
- 認知症だと、入れ歯を外すこと自体を忘れることがありますか?
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あります。認知症では手順理解や義歯着脱の自立度が低下することがあり、「外したくない」ではなく「外せない」場合もあります。
- 認知症の方が入れ歯を外さないとき、まず何をすればよいですか?
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まずは無理に外そうとせず、落ち着ける環境をつくり、短く分かりやすい声かけをします。痛みや不安、外しにくさがないかも確認してください。
- 入れ歯を寝ているときもずっと入れたままでも大丈夫ですか?
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歯医者から特別な指示がない場合は、寝ているときは入れ歯を外しましょう。小さい入れ歯の場合は、就寝中に誤って飲み込んでしまう可能性があります。就寝中には唾液の量が減少しますので、口腔内はより不衛生になりやすいです。そのような環境に入れ歯があることで、口腔内はより不潔になってしまいます。


