入れ歯は乾燥すると、レジン(プラスチック)部分がわずかに収縮して変形することがあります。何時間放置すれば入れ歯は乾燥してしまうのでしょうか?
本記事では、入れ歯の乾燥による影響と、乾燥に影響する時間や湿度などの条件を調べました。さらに、入れ歯を乾かしてしまった時の対処法や歯医者の受診目安についても触れています。
- 入れ歯の乾燥による影響
- 入れ歯を乾燥させてしまったときの対処法
- 入れ歯の正しい保管方法
1分でわかる!入れ歯を乾燥させると何時間で変形するの?

入れ歯は乾燥させた直後から変形を開始しますので、数分の乾燥でも入れ歯にはよくありません。
しかし、一晩(8時間)程度の乾燥では、変形はするものの、実際の使用には問題ないことが多いようです。一日8時間程度の乾燥でも、毎日繰り返してしまうと、入れ歯の変形はどんどん大きくなっていくことがわかっています。
乾燥によって変形した入れ歯は、水中に保管することで多少は形が回復しますが、完全には元には戻りません。入れ歯を保管するときは、原則として入れ歯洗浄液中に保管し、長期間使用しない予備の入れ歯などに限って乾燥させて保管しましょう。
乾燥問題と関連する入れ歯の基礎知識
入れ歯がどのような構造で、どのような素材からできているのかを押さえると、「乾燥で変形する部分はどこなのか」がスッと理解できます。
入れ歯は歯を失った際に使用する装置で、「義歯床(ぎししょう)」と「人工歯(じんこうし)」、「クラスプ(バネ)」などで構成されています。
入れ歯を構成するパーツは、レジン(プラスチック)やセラミック、金属などからできています。
乾燥が問題になるのは、レジン(プラスチック)でできているパーツです。
本項では、入れ歯の基本構造と、構造別の素材について解説します。
入れ歯とは
入れ歯は、歯を失った場合に行う欠損補綴治療(けっそんほてつちりょう)の一つです。欠損補綴治療には、入れ歯のほかに、ブリッジやインプラントがあります。
入れ歯は、比較的短時間で安く治療ができるという特長があります。ほかの治療法とは異なり、患者さんが自分で取り外せるという点も特徴的です。
歯を失う原因はさまざまですが、日本のデータではむし歯と歯周病で約65%、歯が割れてしまう「破折」が15%程度で、これらの三つが歯を失う原因の約80%を占めています。
入れ歯の構造
入れ歯は「義歯床(ぎししょう)」と「人工歯(じんこうし)」、「クラスプ(バネ)」などで構成されます。

床は歯ぐきと触れるピンク色または金属色の部分で、入れ歯の大部分を占めます。人工歯は入れ歯の歯の部分で、クラスプは部分入れ歯を歯に固定するための装置です。

入れ歯の素材
入れ歯は、床、人工歯、クラスプなどのパーツに合わせて、さまざまな素材が使われています。
床の素材
入れ歯の義歯床の素材は、レジン(プラスチック)と金属です。
一般的な入れ歯の床の材料はアクリルレジン(PMMA)で、軽く加工しやすいという特徴があります。一方で軟らかいという特徴もあり、水分の出入り(吸水・乾燥)で寸法がわずかに変化します。
ノンメタルクラスプデンチャーでは、各社さまざまな素材を開発していますが、5つに大別されます。どれもプラスチックの仲間です。
- ポリアミド系
- ポリアミド系
- ポリエステル系
- ポリカーボネイト系
- アクリル系
- ポリオレフィン系
金属床は床の一部を金属に置き換えたものです。金属床はコバルトクロム合金やチタン合金などで作られ、アクリルレジンの弱点である強度と厚みを改善します。床の全てが金属だけでできているわけではなく、アクリルレジンと金属を併用して作製します。
- コバルトクロム合金
- 純チタン・チタン合金
- 金銀パラジウム合金
- 白金加金
人工歯の素材
人工歯の素材は4種類あります。
- レジン(PMMA、UDMA)
- 硬質レジン(レジン+無機フィラー)
- セラミックス
- 金属
レジンのみでできた人工歯のことを「レジン歯」、レジンと無機フィラーでできた人工歯のことを「硬質レジン歯」、セラミックスのみでできた人工歯のことを「陶歯(とうし)」と呼びます。金属はあまり一般的ではありません。
無機フィラーとは、細かいセラミックスの粒のことで、レジン(プラスチック)にセラミックの粒子は混ぜることで強度を高めることが可能です。

クラスプの素材
クラスプはメタルクラスプとノンメタルクラスプがあります。
メタルクラスプは金属でできたクラスプで、使用される金属は主に4種類です。
- コバルトクロム合金
- 純チタン・チタン合金
- 金銀パラジウム合金
- 白金加金
ノンメタルクラスプは、前述したノンメタルクラスプデンチャーの床と同じ素材でできています。床と同様に5種類に大別されます。
- ポリアミド系
- ポリアミド系
- ポリエステル系
- ポリカーボネイト系
- アクリル系
- ポリオレフィン系
入れ歯の乾燥には注意
入れ歯は「乾燥させない」管理が基本です。ただし、入れ歯の乾燥時間と変形の関係性は条件によって答えが変わります。
ここでは、乾燥に弱い理由、乾燥までの時間を左右する環境、起こりやすい問題、そして正しい保管方法を臨床の視点で整理します。
入れ歯が長時間の乾燥に弱い理由
入れ歯の床を構成するアクリルレジン(PMMA)は、水分を含んだ状態で形が安定しやすく、乾燥すると水分が抜けて収縮し、わずかに変形します。
乾燥で生じたズレは、再び水に浸けても完全に元に戻らないことがあり、痛みや不安定の原因になります。
入れ歯が乾燥するまでの時間と周囲の条件
入れ歯の乾燥は短時間でも起こります。明らかな変化が現れるのは、数日以上空気中に入れ歯を放置した場合と考えられます。
入れ歯を8時間乾燥させた場合には、わずかに変形するものの、実際に悪影響をおよぼすほどではないことがわかっています。しかし、一晩程度の乾燥でも、繰り返してしまうと変形が蓄積していくことがわかっています。
しかし、4週間入れ歯を乾燥させた実験では、その初期により入れ歯が変形したこともわかっているため、短時間の乾燥でも油断はできません。
つまり、一晩(8時間)程度の単発の乾燥は問題がないことが多いですが、乾燥初期のほうが入れ歯は大きく変形するため、短時間の乾燥にも注意が必要といえます。
乾燥するスピードは周囲の湿度にも影響を受けます。入れ歯を保管する場所の湿度が低いと、入れ歯がより乾燥しやすくなります。
The effect of cyclic drying on dimensional changes of acrylic resin maxillary complete dentures
Three dimensional deformation of dry-stored complete denture base at room temperature
長時間の乾燥で起こりやすい問題
乾燥が進むと入れ歯が変形し、入れ歯が「きつくなる」「外れやすい」「噛むと痛い」といった適合不良が起きやすくなります。無理に装着すると粘膜に傷ができてしまうこともあります。
正しい装着方法が守られていなければ、変形が少なくても痛みなどが生じてしまいます。まずは、正しい入れ歯の着脱方法が守られているか確認してください。

入れ歯の乾燥はひび割れの誘因になる可能性もあり、入れ歯の機械的な強度を減少させるリスクがあります。。
- 入れ歯がきつくなる
- 入れ歯が外れやすくなる
- 入れ歯が当たって歯ぐきが痛い
- 入れ歯が壊れやすくなる
入れ歯を乾燥させてしまったときの対処法
「うっかり机に置いたまま」「旅行先でケースがない」など、入れ歯を乾燥させてしまう場面は珍しくありません。
ここでは、入れ歯を乾燥させてしまった際にまずやること、歯医者受診の目安、修理や作り直しが必要なケースを整理します。
乾燥した入れ歯はまずどうする?
乾燥した入れ歯は、まずは水に浸けて吸水させます。吸水させることで、変形がある程度回復することがわかっています。
水に戻したあと装着して「痛い・入らない・浮く」場合は、無理をせず使用を中止します。応急処置として入れ歯安定剤を使用することで、入れ歯が外れにくくなりますが、早めに歯医者を受診しましょう。
入れ歯を乾燥させてしまった際の受診目安
乾燥させた時間が長いほど、入れ歯が大きく変形している可能性が高いです。長時間乾燥させて場合には受診の優先度は上がりますが、実際には「症状の有無」で判断することになるでしょう。
装着すると痛い、こすれる、外れやすい、かみにくい、発音しにくくなったなどの症状があれば早めに歯医者を受診しましょう。歯医者を受診するまでの間は、歯ぐきに負担になりにくい食事を選ぶことも大切です。

入れ歯の作り直しや修理が必要になるケース
小さな変形では、入れ歯を削ったり、レジンを足したりして修理が可能です。修理後は、すぐに不快症状が消えないことも多いので、繰り返しの調整が必要になります。
入れ歯が大きく変形し、調整では修正ができない場合や、ひび割れなどがある場合は、作り直しが必要になります。入れ歯を作り直す場合には数か月を要しますので、早めに行動することが大切です。
不適切な入れ歯を長期間使用していると、入れ歯を使用せずに食事をとるようになる方もいます。自己判断での入れ歯の不使用は、残った歯に悪影響をおよぼすこともあるため、注意が必要です。

入れ歯の種類と「乾燥しやすさ」の違い
入れ歯の乾燥問題は「全部同じ」ではありません。
入れ歯の種類によって、乾燥による変形の起こりやすさが変わります。ここでは代表的な入れ歯のタイプごとに、乾燥との関係性を説明します。
プラスチック入れ歯・レジン床義歯
最も一般的な入れ歯であり、保険治療で作製されるのがレジン床義歯です。
レジン床義歯の大部分はレジンでできています。レジンは水分の出入りで変形しやすく、乾燥時間が長くなるほど反りや適合のズレが起きやすくなります。
金属床義歯
金属床の金属部分は乾燥の影響は受けません。しかし、レジンでできた床部の変形リスクはゼロではありません。金属によってサポートされているため、レジンだけでできたレジン床よりは変形しにくいでしょう。


ノンクラスプデンチャー
ノンメタルクラスプデンチャーは弾性のある樹脂を使用した審美的な入れ歯です。部分入れ歯のデメリットでもある「クラスプ(バネ)が目立つ」という点を解消しています。
ノンメタルクラスプデンチャーに使用される樹脂は複数あり、製品ごとに乾燥による影響が異なることが示唆されます。乾燥によって変形することは間違いありませんが、使用している樹脂に合わせた保管方法を遵守するうようにしましょう。
Linear Dimensional Change and Ultimate Tensile Strength of Polyamide Materials for Denture Bases
マグネットデンチャー・磁性アタッチメント義歯
入れ歯の内面に磁石を取り込み、自分の歯の土台と磁力でくっつくタイプの入れ歯です。総入れ歯であっても、外れにくい点が特長です。
保険治療でも自費治療でも作製できますが、保険治療のものはレジン義歯、自費治療のものは金属床義歯に磁石を取り込むことが多いです。
乾燥による変形の影響はレジン床義歯と金属床義歯に準じます。マグネットデンチャーだからといって、変形しにくいということはありません。
インプラントオーバーデンチャー・インプラント義歯
顎の骨に埋め込んだインプラント体と入れ歯を連結する治療法です。マグネットデンチャーと同様に、総入れ歯であっても外れにくいという特長があります。
インプラントオーバーデンチャーは自費治療でしか作れません。そのため、金属床義歯と併用されることが多く、レジン床義歯と比べて、乾燥による変形は小さいことが予想されます。
入れ歯の保管方法
入れ歯の保管方法を理解し、入れ歯を乾燥させる機会を減らしましょう。入れ歯を乾燥させてしまうと、変形やひび割れを招いてしまいます。
入れ歯を保管する際は、以下のことに注意します。
- 就寝時は歯ぐきを休ませるためにも、入れ歯は外して保管する。
- 入れ歯を「入れ歯用ブラシ」と「入れ歯用歯磨き粉」で磨いてから保管する。
- 入れ歯用ケースに水を入れ、入れ歯用洗浄剤を溶かした液に入れ歯を保管する。
- 入れ歯の素材を確認し、使用可能な入れ歯洗浄剤を選ぶ。
- 保管・洗浄に使う入れ歯洗浄液は毎日交換する。
熱湯による入れ歯の洗浄は入れ歯を痛めますので控えましょう。
入れ歯の正しい保管方法
入れ歯を外したら、洗ってから入れ歯洗浄液中に保管します。予備の入れ歯などを長期間保管する場合には、洗浄後に乾燥させて保管します。
日々使用している入れ歯は、日中は口腔内で使用し、就寝時には取り外して入れ歯洗浄液に漬け置きすることが一般的です。一日を通して水分と触れている時間がほとんどであり、入れ歯の変形を最小限に抑えます。
入れ歯洗浄剤には多くの種類があります。下記の記事では筆者がおすすめする入れ歯洗浄剤を紹介しています。

予備の入れ歯や昔の入れ歯を水中で保管しようと思うと、こまめに水を交換しなければいけないため、手間がかかります。水の交換を怠ると水が腐敗してしまうため、現時点で使用していない入れ歯は空気中に保管するほうが無難です。
空気中に保管することで、入れ歯は乾燥しますが、その結果カビの発生を抑制でき、入れ歯を清潔に保てるという研究結果もあります。
やってはいけない入れ歯の保管方法
やってはいけない入れ歯の保管方法は以下の通りです。
- 熱湯を使用する
- 入れ歯を漬ける水を毎日交換しない
- 入れ歯を空気中に長時間放置する
熱湯を使用すると、入れ歯の消毒はできるかもしれませんが、入れ歯が熱で変形してしまいます。ぬるま湯は汚れを落としやすくするため、使用していただいて問題ありません。
入れ歯を漬ける水を毎日交換しないと、細菌やカビが繁殖し、かえって入れ歯が不潔になってしまいます。毎日交換したとしても、入れ歯洗浄剤を使用しないと、細菌やカビが増加していきますので注意が必要です。
入れ歯を空気中に長時間放置してしまうと、変形してしまう恐れがあります。入れ歯を保管する際は、入れ歯洗浄液に漬けて保管しましょう。
「入れ歯の乾燥時間と水中保管」のまとめ
入れ歯の乾燥により、義歯床などのレジン(PMMAなど)が収縮し、入れ歯の精密な適合がズレてしまいます。その結果、「きつい・外れる・噛むと痛い」などの入れ歯のトラブルを招きます。
変形は乾燥直後から始まり、8時間程度の単発なら影響が小さいこともありますが、放置した時間が長いほどリスクは上がり、繰り返すとズレが蓄積します。湿度が低い場所では乾燥が進みやすく、ひび割れや強度低下の誘因にもなります。
金属床でもレジン部は注意が必要で、ノンクラスプは樹脂の種類で影響が異なります。乾いたらまず水に浸け、痛み・浮き・発音の変化があれば無理に使わず歯科へ。普段は洗浄後に洗浄液で保管しましょう。
「入れ歯の乾燥時間と水中保管」に関するQ&A
「入れ歯の乾燥時間と水中保管」に関する質問を集めました。
- 入れ歯を乾燥させたら何時間で変形しますか?
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入れ歯は乾燥直後から変形をはじめます。しかし、8時間程度の乾燥では、使用する上で明らかな問題が起こることは少ないようです。何時間程度の乾燥が使用上問題になるのかについては、結論は出ていません。
- 一晩放置(就寝中)してしまい、入れ歯が乾燥したらどうすればいい?
-
まずはすぐ水中に入れ歯を保管し、吸水させてください。一度乾燥させてしまった入れ歯も、再度水に漬けることであるていど変形が回復することがわかっています。一晩放置したくらいでは問題は起こりづらいですが、使用上問題があれば歯医者に相談してください。
- 入れ歯は寝るとき水に浸ける?それとも外して乾かす?
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入れ歯は就寝中は、入れ歯洗浄剤に漬けておきましょう。原則として乾燥保管は行いません。
- 水道水で保管していい?洗浄液のほうが良い?
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水道水で保管せず、入れ歯洗浄液に漬けておきましょう。蒸留水で入れ歯を保管した実験では、入れ歯の表面にカビが増殖したとしています。
- 金属床やノンクラスプでも乾燥は問題になりますか?
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金属床やノンメタルクラスプデンチャーでも、レジンを使用した材料には乾燥による変形のリスクがあると考えてよいでしょう。
- 入れ歯の乾燥に注意する理由は?
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入れ歯を構成するレジン(プラスチック)は、少量の水分を含むことで形が安定します。入れ歯を長時間にわたって乾燥させてしまうと、レジンの中に入っている水分が抜けて、レジンが収縮してしまいます。その結果、入れ歯が変形してしまうため、入れ歯の乾燥には注意が必要です。
- 入れ歯が乾燥しない保管方法は?
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入れ歯が乾燥しない保管方法は、入れ歯洗浄液の中に入れ歯を保管し、乾燥の防止と入れ歯の洗浄を同時に行うことです。乾燥による変形を防ぐだけでなく、入れ歯を清潔に取り扱うことにもない、一石二鳥です。


