入れ歯にしてから「前は食べられたのに…」と、食事が楽しくなくなっていませんか?
なぜ入れ歯で食べられないものと食べやすい食事が生まれるのかを解説し、「入れ歯で食べられないもの・食べにくい食品の特徴」と「入れ歯でも食べやすい食事・メニュー例」をまとめました。
入れ歯の問題点だけでなく、食事中の姿勢や食材の調理法、外食のコツなど、今日から実践できる対策を解説します。
- 入れ歯で食べられないもの・苦手な食事
- 入れ歯で食べやすい食事
- 入れ歯でも食事を取りやすくする対処法
1分でわかる!入れ歯で食べられないものと食べやすい食事

「入れ歯で食べられない・食べにくいもの」を、原因別にまとめました。
- 硬い食品
-
- ナッツ類
- 生の根菜類(にんじんスティックや大根スティックなど)
- 硬さのあるフルーツ(りんごや梨など)
- かみちぎりにくい食品
-
- ステーキなどの大きなお肉
- フランスパンなどの表面が硬いパン
- イカやタコなど
- 繊維質な食品
-
- ごぼう
- レタスやキャベツなどの葉物野菜
- くっつきやすい食品
-
- 餅
- キャラメル・ガム
- パン
- パサつきやすい食品
-
- クッキーやビスケット
- ドライフルーツ
- 入れ歯の下に挟まりやすい食品
-
- ナッツ類
- ポテトチップスやせんべい
一方で、「入れ歯で食べやすい食事」何でしょうか?

- 軟らかい食品
-
- 加熱した野菜
- 豆腐
- 軟らかいフルーツ(イチゴやバナナ)
- かみ切りやすい食品
-
- 鶏肉や挽肉、薄切りのお肉など
- 薄切りの食パン
- お魚のお刺身
- まとまりやすい食品
-
- ソフトクッキー
- あんかけや卵とじなどのとろみのある料理
同じ食材でも、調理法によって食べやすさは大きく変わります。入れ歯で食べやすくするための調理の工夫は以下3つです。

- 生のままではなく、加熱する
- 塊のままではなく、小さく切る・すりつぶす
- 筋や繊維を断ちきる方向にカットする
入れ歯で食べられないものと食べやすい食事がある理由
入れ歯にすることで、「食べられないもの」と「食べやすい食事」が生じることがあります。
この差には、入れ歯の構造やかむ力の低下、入れ歯の適合状態、唾液量や全身の筋力低下など、いくつかの原因が関わっています。
総入れ歯か部分入れ歯か、さらに嚥下機能がどの程度保たれているかによって、「食べにくさ」の出方も変わります。
ここでは歯科の立場から、そのメカニズムをわかりやすく解説します。
入れ歯に慣れるのが大変
どんなに精密に作られた入れ歯でも、装着直後から自分の歯のように使いこなせるわけではありません。新しい義歯に慣れるまでには一定の期間が必要で、多くの方は数週間〜数か月かけて少しずつ適応していきます。
この間は違和感やかみにくさから、「今まで食べられていたものが食べられないもの」に感じられがちです。この時期に我慢できず入れ歯を外してしまうと、さらに慣れにくくなり悪循環になります。
やわらかい食事から段階的に食材を増やし、茶碗蒸し・やわらかい魚・煮物などの「リハビリメニュー」を中心にしながら、入れ歯で食事する練習することが、入れ歯に慣れるためには必要です。
入れ歯に慣れるために必要な期間の目安は三か月です。
入れ歯を長時間使えない場合、入れ歯を「食事の時だけ外す」「食べる時だけ使う」という状況になりがちです。このような入れ歯の使い方を続けるリスクについては、下記の記事でまとめています。

入れ歯の適合が悪い・入れ歯が外れやすい
「合っていない入れ歯」を使い続けると、食べ物をかみにくいだけでなく、入れ歯と歯ぐきの間に食べ物が挟まりやすく、食事することが嫌になってしまいます。
合ってる入れ歯でも、誤った着脱法によって入れ歯が変形してしまったり、歯ぐきや歯を痛めてしまい、食事に悪影響をおよぼすことがあります。正しい着脱方法は必ずマスターしましょう。

入れ歯を作ったときには適合が良くても、顎の骨は時間がたつと痩せていくため、数年前に作った義歯が現在の歯ぐきの形に合わなくなり、ガタつきや痛み、外れやすさにつながります。その結果、食べにくい食品を自然と避けるようになり、「食べられないもの」がさらに増えてしまいます。
時間の経過とともに口腔内の状態は変化していくため、定期的な入れ歯の調整は必須です。ある研究では、入れ歯を使用している方のうち、1年以内に歯医者を受診した人は約60%とされています。
入れ歯の調整頻度は人それぞれですが、日本歯科医学会によると半年に1回を目安に、入れ歯の確認・調整が必要としています。
Denture wearing during sleep doubles the risk of pneumonia in the very elderly
入れ歯はかむ力が減少する
天然歯は骨にしっかりと固定されています。入れ歯は、歯ぐきや残っている歯に力を分散して支えています。
そのため、かむ力が天然歯よりも弱くなり、総入れ歯で天然歯の1〜2割程度、部分入れ歯で3〜4割程度まで低下すると報告されています。
入れ歯で食事を食べる場合には、柔らかい食品の方が食べやすいと感じる理由でもあります。
Rehabilitation of biting abilities in patients with different types of dental prostheses
唾液が減少して食べ物がまとまらない
入れ歯は50代以降で使用率が高まっていきます。高齢になると、服用薬や全身疾患の影響もあり、唾液分泌が低下しやすくなります。
唾液は食べ物を一塊にまとめ、飲み込みやすくする重要な役割を持っています。唾液量が減ると水分が少ないパンやクッキーなどが食べにくくなります。
唾液が少ない状況では、水分が少ない食事は食べにくくなり、水分が多い食事は食べやすくなります。
入れ歯の表面も乾燥して食べ物がくっつきやすくなり、入れ歯の吸着力も減少してしまうため「入れ歯で食べられないもの」が増えてしまいます。
こまめな水分摂取や、唾液腺マッサージ、キシリトールガムをかむなどの工夫で唾液の分泌を促します。人工唾液や唾液の分泌を促す薬を使用することもありますので、まずは歯医者に相談してみましょう。
咀嚼機能や嚥下機能が低下するオーラルフレイル
オーラルフレイルは、「口の機能の健常な状態」と「口の機能低下」との間にある状態と定義されています。口周りの機能低下が進むと、入れ歯が合っていても食事がとりにくくなります。
舌や頬の筋力が弱ると、食べ物を奥歯に運びにくくなり、飲み込む力が落ちると口の中に食べ物がたまってしまいます。その結果、やわらかい炭水化物中心の食事に偏ったり、食事の時間が長くなってしまい低栄養を招く悪循環に陥ります。
食事が食べにくいことが、必ずしも入れ歯だけのせいではないということを覚えておきましょう。
入れ歯で食べられないもの・食べにくい食品の特徴
「入れ歯だと食べられないもの」は人によって違いますが、歯科的に見ると共通した性質を持つ食品が多くあります。硬さ、弾力、粘着性、繊維の強さ、パサつきやすさなどが重なるほど、入れ歯での食事は難しくなります。
総入れ歯の方は特に硬い食品やかみちぎりにくい食材に注意が必要です。
ここでは具体的な食材名も挙げながら、「どんな特徴の食べ物が苦手なのか」を整理し、日々の食事やレシピを組み立てるヒントにしていきます。
硬い食品
入れ歯では食べられない・食べにくいとされる硬い食品には以下のようなものがあります。
- ナッツ類
- 生の根菜類(にんじんスティックや大根スティックなど)
- 硬さのあるフルーツ(りんごや梨など)
入れ歯では、咬合力が自分の歯より弱いため、硬い食品を砕くことは苦手です。特に新しい入れ歯を装着した直後などは、歯ぐきに強い痛みが生じることもあります。
硬い食品を完全に禁止する必要はありませんが、根菜類は加熱して柔らかくする、硬さのあるフルーツは薄く切るなどの適切な加工をしましょう。
新しい入れ歯でいきなり硬い食品にトライするのは避けたほうが無難です。
かみちぎりにくい食品
入れ歯では食べられない・食べにくいとされる、かみちぎりにくい食品には以下のようなものがあります。
- ステーキなどの大きなお肉
- フランスパンなどの表面が硬いパン
- イカやタコなど
ナッツ類のように硬くなくても、かみ切りにくい食品は入れ歯が苦手とする食品です。特にステーキなどを前歯でかみちぎることは、総入れ歯では非常に困難です。
かみちぎりにくい食材は、薄くスライスする、あらかじめ一口大に切るなどの工夫が必要です。
繊維質な食品
葉物野菜などの繊維質な食品も、入れ歯では食べられないと感じやすいです。
- ごぼう
- レタスやキャベツなどの葉物野菜
ごぼう、セロリ、ニラ、きのこ類、パイナップル、白菜・レタスなど、繊維が強い食材は、入れ歯の人工歯ではかみ切りにくく、長い繊維が口の中に残って不快感につながります。また、繊維が義歯と歯ぐきの間に入り込み、痛みや違和感を生むこともあります。一方で、野菜やきのこは健康維持のために重要な食べ物であり、まるごと避けると栄養不足の原因になります。細かく刻む、よく煮込む、スープやポタージュ、野菜あんかけにするなど、調理で繊維を断ち切る工夫が欠かせません。
くっつきやすい食品
餅やキャラメル、パンなどの粘着性の高い食品は、入れ歯に張り付きやすく「食べられない・食べにくいもの」の代表例です。
- 餅
- キャラメル・ガム
- パン
パンのように、もともとは粘り気がなくても、かんでいるうちに粘着性がでてくる食品も注意が必要です。
餅は粘着質なだけでなく、喉に詰まりやすい食品として有名です。餅を詰まらせて亡くなる方は、毎年1,000人程度にも上るとされています。
餅や嗜好(しこう)性の食品であるキャラメルなどは控えたほが無難でしょう。
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パサつきやすい食品
水分の含有量が少なく、パサつきやすい食品も「入れ歯では食べられない」と感じられやすいです。
- クッキーやビスケット
- ドライフルーツ
唾液が十分に出ないと食べ物がひとまとまりにならず、飲み込みにくさや「のどに残る感じ」につながります。
クッキーと一緒に牛乳などの水分を摂取したり、ソフトクッキーなどの比較的水分量が多い製品を選択したりするのもおすすめです。ドライフルーツは繊維質な製品も多く、「パサつきやすい」+「繊維質」なので、入れ歯では食べにくいかもしれません。
入れ歯と歯ぐきの間に挟まりやすい食品
ナッツ、ポテトチップス、砕けやすいせんべいなどは、かんだときに細かく崩れるため、入れ歯と歯ぐきの間に入り込みやすい食材と考えられいます。
- ナッツ
- ポテトチップスやせんべい
入れ歯と歯ぐきの間に食べ物が挟まると、強い痛みを引き起こし、「あの食べ物はもう食べたくない」と感じる原因になります。
これらの食品を摂取する場合には、適合のよい入れ歯を使用することが大前提です。適合がよい入れ歯でも細かな食品は挟まってしまいますので、必要に応じて入れ歯安定剤を使用してもよいでしょう。
入れ歯でも食べやすい食事の特徴
入れ歯でもストレスなく食べられる「食べやすい食事」には、いくつか共通するポイントがあります。
食材の性質と調理法を工夫することで、同じ食べ物でも「入れ歯では食べられないもの」から「食べやすいメニュー」に変えることができます。
総入れ歯・部分入れ歯のどちらでも基本は同じですが、高齢で嚥下機能が低下している方ほど、やわらかさやまとまりやすさをより重視します。
ここでは、毎日の献立づくりやレシピ選びの指標となる、食べやすい食事の基本的な特徴を整理します。
やわらかい食品
よく煮込んだ肉や魚、豆腐、卵料理、茶碗蒸し、シチュー、やわらかく炊いたご飯やおかゆなど、フォークで簡単につぶせる程度のやわらかさの食品は、総入れ歯・部分入れ歯ともに「食べやすい食事」の代表です。
朝食ならやわらかいパン+スクランブルエッグ+ヨーグルト、昼食なら煮込みハンバーグ定食、夕食なら白身魚の煮付けと根菜の煮物などが一例です。
同じ食材でも、加熱調理をすることで食材が柔らかくなります。生のにんじんスティックではなく、加熱調理したにんじんスティックのほうが、食べやすいでしょう。
かみ切りやすい食品
同じ肉や野菜でも、カットの方向や形態を工夫をすると、入れ歯でもかみ切りやすい食材になります。
同じ生のネギだとしても、繊維を断ちきる方向に切った「ネギの小口切り」のほうが、繊維と同じ方向に切った「白髪ネギ」よりもかみ切りやすいです。
お肉でも、ステーキのような塊のお肉よりも、ハンバーグや肉団子のように、挽肉をまとめた食品のほうがかみ切りやすいです。しょうが焼きでは、一般的なしょうが焼き用の厚切りスライスされた豚肉を使用せず、薄切りスライスされた豚肉を使うことで、かみ切りやすくなります。
パンでは、フランスパンのような表面が硬いパンではなく、薄くスライスした食パンのほうが食べやすいことがわかっています。
まとまりやすい食品
口の中でバラバラにならず、ひとまとまりになりやすい食材や調理は、嚥下機能が低下した方や唾液が少ない方にとって特に食べやすい食事になります。
とろみのあるあんかけ料理、具材を小さくしたシチューやカレー、卵でとじた丼物、グラタンやドリア、雑炊などは、食品同士がソースや卵でつながっているため、飲み込みまでスムーズに進みます。
おやつならクッキーやビスケットではなく、プリンやババロア、ヨーグルト、フルーツ入りゼリーなどもまとまりやすい食品です。レシピを考えるとき、「口の中でバラバラにならないか」「スープやソースでまとめられるか」を一つの目安にするとよいでしょう。
入れ歯でも食べやすい食事・メニュー例
食べやすい食材の特徴がわかっても、「実際の献立にどう落とし込めばいいのか」がイメージしづらい方も多いと思います。
ここでは、総入れ歯・部分入れ歯どちらの方にも応用しやすい、1日のメニュー例を通して、具体的な食べやすい食事の組み立て方を紹介します。
主食のメニュー例
主食とは、ご飯をはじめとする炭水化物のことを指します。
- ご飯・おかゆ・雑炊
- 食パン
- うどん
- ショートパスタ(マカロニ)
同じような食材でも、「入れ歯では食べられないもの・食べにくいもの」もあります。
パンであれば、表面をよく焼きすぎてしまうと、食べにくくなってしまいます。細めの麺類は、特に総入れ歯でかみ切りにくい傾向があります。「すする」という行為も難しい場合がありますので、麺類を短めにカットすることも食べやすさの秘訣です。
| 食べやすいもの | 食べにくいもの |
|---|---|
| 薄切りの食パン | フランスパン 表面を硬く焼いたパン ナッツが入ったパン 厚いピザ生地 |
| うどんなどの太麺 | ラーメンやそばなどの細麺 |
| ショートパスタ | ロングパスタ |
主菜のメニュー例
主菜は 魚・肉・卵・大豆・大豆製品を主材料とする料理のことで、たんぱく質の供給源となります。
- 鶏の唐揚げ
- ゆで鶏
- ハンバーグ・肉団子
- 冷や奴・湯豆腐
- 煮魚・焼き魚
- 魚のお刺身
主食と同様に、同じような食材でも、形態や調理法によって「入れ歯では食べられないもの・食べにくいもの」になってしまう場合もあります。
| 食べやすいもの | 食べにくいもの |
|---|---|
| 鶏の唐揚げ ハンバーグなどの挽肉料理 | とんかつ 牛肉のステーキ |
| 冷や奴などの豆腐料理 | 落花生やナッツ類 |
| 魚のお刺身 | タコ・イカのお刺身 なまこ酢 |
| 煮アワビ | アワビのお刺身 |
豚肉は、筋張っていて弾力があることもあり、鶏肉よりもやや食べにくいです。牛肉自体はかみ切りやすいものの、厚切りのステーキなどはかみ切りにくいです。
魚介類の中でも、タコ・イカ・貝類は硬くてかみ切りにくいこともあるので、注意が必要です。貝類のお刺身でも、サザエやつぶ貝のような巻き貝と比べると、ホタテやカキなどの二枚貝のほうが柔らかく食べやすいでしょう。
副菜のメニュー例
副菜とは、ビタミン、ミネラル、食物繊維の供給源となる、野菜、いも、豆類(大豆を除く)、きのこ、海藻などを主材料とする料理のことです。
- 温野菜
- 具だくさんお味噌汁
- シチュー
- 葉物野菜のポタージュ
- ポテトサラダ・マッシュポテト
葉物野菜は繊維質で、根菜類は硬いことが多いので、副菜では加熱調理が基本となります。水溶性ビタミンや特にビタミンCなどは、ゆでるる調理でビタミンが失われやすいので注意が必要です。
| 食べやすいもの | 食べにくいもの |
|---|---|
| 温野菜 | 生野菜スティック |
| キャベツのポタージュ キャベツのお味噌汁 | キャベツの千切り |
お菓子・間食のメニュー例
「食事は何とか工夫できても、お菓子や間食で何を食べていいのかわからない」という声も多く聞かれます。
栄養不足になりがちな高齢者では、間食も栄養素とカロリーを摂取する重要な機会です。ただ甘いものを選ぶのではなく、必要な栄養素やカロリーを摂取するように心がけましょう。
- プリン
- ヨーグルト・アイスクリーム
- イチゴ・バナナ
プリンには卵や牛乳が使われており、タンパク質を摂取できます。ヨーグルトやアイスクリームは乳製品であり、カルシウムが多く含まれています。
生のフルーツには、特にビタミンCが多く含まれています。ビタミンCは加熱調理で失いやすいため、野菜だけでは不足しやすい栄養素です。
一方で、キャラメル、ガム、グミ、ヌガー、ねばりの強いお餅系和菓子、カチカチのキャンディー、ポテトチップス、硬いクッキーやビスケットなどは、入れ歯にくっつきやすかったり、強い力でかみ砕く必要があったりするため注意が必要です。
お菓子や間食には糖類が多く含まれている製品が多いため、糖尿病を患っている場合には厳格なコントロールが必要な場合もあります。
入れ歯でも外食・会食を楽しむためのポイント
入れ歯になってから、「外食や会食の場でうまく食べられず恥ずかしい思いをしたくない」と不安に感じる方も少なくありません。
しかし、メニューの選び方と食べ方の工夫を知っていれば、入れ歯でも外食を十分楽しむことができます。
外食時の入れ歯の取り扱いについては、下記の記事で詳細にまとめています。

選びやすいメニューと避けたいメニュー
和食では、煮魚定食、煮物中心の定食、天ぷらうどんや鍋焼きうどん、親子丼や卵とじ丼など、やわらかく煮た食材が多いメニューがおすすめです。洋食では、ハンバーグランチ、グラタン、シチュー、オムライス、ドリアなどが比較的食べやすい傾向にあります。
避けた方が無難なのは、厚切りステーキや焼き肉の厚切りロース、フランスパン中心のセット、ハード系パンのサンドイッチ、ナッツたっぷりのサラダやデザートなど、「入れ歯では食べられないもの」と重なりやすいメニューです。
入れ歯での食べ方のコツ
一口量を普段より意識して少なめにし、よくかんでから飲み込むことを心がけましょう。
難しそうな食材は無理に食べず、食べやすいおかずから優先的に口に運ぶのも一つの方法です。前歯で無理にかみちぎるのではなく、最初からフォークやナイフで小さく切ってから食べると、入れ歯がはずれにくくなります。
事前にできる準備と心構え
大切な会食や旅行の前には、入れ歯の当たり具合やがたつきがないか、歯科でチェックしてもらうと安心です。一時的に入れ歯安定剤を併用することで、外食時の外れにくさが改善する場合もあります。
また、「すべてのメニューを完食しなければならない」と思い込まず、「食べやすい食事を選びながら雰囲気を楽しむ」ことに目的を置くと、心理的な負担も軽くなるでしょう。
入れ歯で食べられないものを食べやすくする方法
入れ歯だからといって、好物をすべてあきらめる必要はありません。食事の形態や姿勢、一口量といったポイントを少し工夫するだけで、「食べられないもの」が「なんとか食べられる」に変わることも多くあります。さらに、総入れ歯か部分入れ歯か、嚥下機能の状態によって注意点は変わるため、自分に合った食べ方を見つけることが重要です。ここでは、家庭や外食で今日から実践できる具体的な対応のコツを解説します。
食事の形態を工夫する
食材そのものを禁止するのではなく、「形態」を工夫することが重要です。
- 生のままではなく、加熱する
- 塊のままではなく、小さく切る・すりつぶす
- 筋や繊維を断ちきる方向にカットする
食形態の工夫は、食事を食べやすくする基本です。多くの食材では、加熱調理をすることで柔らかくなり、食べやすくなります。
同じ調理法でも、ステーキのように塊として食べるのではなく、薄くスライスしたり、小さくブロック状に切ったりすると食べやすくなります。
少しアドバンスの方法ですが、とんかつなどの豚肉を使う料理では、筋の部分を断ち切るように隠し包丁を入れたり、野菜の繊維を断ち切る方向でカットしたりする手法も有用です。
食事中の姿勢に注意する
姿勢は見落とされがちですが、入れ歯で食事を食べやすくするための重要なポイントです。
- 足を床につける
-
両足をしっかり床につけることで体幹が安定し、飲み込みやすくなる。
- 膝の角度
-
膝を直角に曲げることで、骨盤が安定し、姿勢が良くなる。
- 背もたれを使う
-
背もたれを使用することで長時間の食事でも疲れにくい。
- クッションを使う
-
座面の高さや背もたれの位置などをクッションで微調整する。
食事の際にむせやすい場合は、顎を少し引いた姿勢で食事を食べることも有効です。
一口量を守る
どれだけ食材やレシピを工夫しても、一口量が多すぎると入れ歯ではうまくかめず、のどに詰まりやすくなります。スプーンに山盛りではなく、「少なすぎるかな」と感じる程度の量を目安にし、しっかりかみ切ってから次の一口に進む習慣が大切です。
一口量は、水分で20ml以下、固形物でティースプーンすり切り1杯(約5 mL)を目安にしましょう。
特に総入れ歯や嚥下機能が低下している方では、一口量の調整だけで「食べやすい食事」に変わることも少なくありません。家族が盛り付ける場合も、量に配慮したサポートが必要です。
食品が食べられない入れ歯はどうする?
どれだけ食事の工夫をしても、「特定の食べ物どころか、普段の食事もつらい」という状態であれば、入れ歯そのものの見直しが必要なタイミングかもしれません。
治療法を変えるかどうかも含めて、歯医者で原因を診断してもらい、総入れ歯・部分入れ歯それぞれに合った対応を相談しましょう。
ここでは、代表的な選択肢とその考え方を解説します。
入れ歯の調整・修理をする
まず検討すべきなのは、現在使っている義歯の調整・修理です。
入れ歯の一部が強く当たっている場合は、その部分をわずかに削るだけで痛みが大きく軽減することがあります。また、バネの緩みを締め直す、歯ぐきとの隙間を裏打ち材で埋めるなどの処置で、食事中のガタつきが改善することも多いです。
我慢して使い続ける前に、一度歯医者で調整を受けるメリットは大きいと言えます。調整後は、これまで「入れ歯では食べられないもの」と感じていた食品も、工夫次第で再チャレンジしやすくなります。
入れ歯を新しく作り直す
顎の骨が大きく痩せていたり、長期間使い続けて入れ歯自体がすり減っている場合は、調整だけでは限界があり、新しい義歯を作製した方が結果として快適な食事につながることがあります。
保険の入れ歯でも、設計やかみ合わせを工夫することで、以前より「食べられる食べ物」が増える例は少なくありません。さらに、自費診療では金属床義歯やシリコン義歯など、薄くて違和感の少ない素材や設計を選べるため、「食べやすい食事」を目指しやすくなるケースもあります。
作り直しには期間と通院が必要ですが、「食事が楽しくなる」「外出や会食に自信が持てる」といった生活上のメリットを考えると、検討する価値は十分あります。補綴専門医や入れ歯治療を得意とする歯科を選ぶこともポイントです。
入れ歯以外の治療法に変更する
歯を失った際の治療法には、ブリッジやインプラント、インプラント義歯(インプラントオーバーデンチャー)など、入れ歯以外の治療法もあります。
特にインプラントを活用した治療法は、咀嚼効率の改善が期待でき、「入れ歯では食べられなかったもの」が食べやすくなるケースも多く報告されています。ただし、外科手術や費用、治療期間、全身状態など考慮すべき点も多く、すべての人に適応できるわけではありません。
口腔内の状態によって実施可能な治療法は異なりますので、歯医者としっかり相談し、自分の生活スタイルや健康状態、治療期間の希望に合った治療を選ぶことが必要です。
食べ物をかむ力を鍛える
入れ歯や治療法を見直すと同時に、咀嚼筋や口周りの筋肉を鍛えることも大切です。ガムやかみごたえのある食品で無理に鍛えるのではなく、歯科やリハビリで推奨されるお口の体操やお口のトレーニングがおすすめです。
現在では介護施設などでも、「あいうべ体操」や「ぱたから体操」などが行われていることが増えてきました。
定期的に歯科で口腔機能を評価してもらい、自分に合ったトレーニング方法を教わると、無理なく安全にかむ力を育てていくことができます。
「入れ歯で食べられないものと食べやすい食事」のまとめ
入れ歯にすると、かむ力の低下や義歯適合不良、唾液減少やオーラルフレイルの影響で、硬い・粘着性・繊維質・パサつく食品など「食べられないもの」が増えがちです。
一方で、よく煮込んだ肉や魚、豆腐・卵料理、あんかけやシチューなどのやわらかくてまとまりやすい料理は「食べやすい食事」です。
入れ歯に慣れるまでの数週間は、おかゆや茶碗蒸しなどのリハビリメニューから始め、切り方や調理法、一口量や姿勢を工夫しつつ、少しずつ食べられる範囲を広げていくことができます。
入れ歯そのものに原因がある場合もあるため、入れ歯の調整や他の治療法に変更するなども考慮にいれましょう。まずは現状の問題点を歯医者としっかり相談しましょう。
Q&A
「入れ歯で食べられないものと食べやすい食事」に関する質問を集めました。
- 入れ歯を入れている人は、どんな食事をしたらいいですか?
-
食べられるものであれば、何でも食べて大丈夫です。
入れ歯を装着した直後や入れ歯の治療を受けている場合には、柔らかい食品を中心とした食事を取りましょう。
- 入れ歯なしで食べられる食べ物は?
-
入れ歯を入れずに食事を取っている方も見かけますが、歯医者の目線からは入れ歯を入れずに食事を取ることはおすすめしません。
特に総入れ歯の場合には、栄養ゼリーやお豆腐など、かまなくてよい食品や、舌で押しつぶせる食品がメインとなるでしょう。
- 入れ歯でも食べやすい食事・食べ物は?
-
入れ歯でも多くの食品を食べることができます。
加熱調理をした食品は軟らかく、一般的に入れ歯でも食べやすいものが多いです。硬い食品や繊維質な食品でも、細かく切ったり、すりおろしたりする工夫によって、食べやすくなります。
- 入れ歯で苦手な食べ物は?
-
一般的には、硬い食品、繊維質な食品、パサつく食品、粘着質な食品などが苦手です。
ですが、これらの食品を食べてはいけないわけではなく、調理や食べ方の工夫によって、入れ歯でも快適に食事が取れるでしょう。


