「入れ歯は食事の時だけ外すべきか」、「食べる時だけ使うのは大丈夫なのか…」と迷っている方は少なくありません。
この記事では、その使い方が口の中や全身の健康に与える影響を、違和感・痛み・味覚・かむ力などの専門的な視点からメリット・デメリットをまとめました。
適切な装着時間を守るための方法や、快適に食事を食べるための対処法を歯医者の立場からわかりやすく解説します。
- 食事の時だけ入れ歯を外してよいのか?
- 入れ歯を食べる時だけ使うのはありか?
- 入れ歯を長時間使うための対処法
1分でわかる!入れ歯を「食事の時だけ外す・食べる時だけ使う」のはあり?

原則として、入れ歯を「食事の時だけ外す」「食べる時だけ使う」のはおすすめできません。食べる時だけ使うことは問題が起こりにくいですが、食事の時だけ入れ歯を外す行為はデメリットが大きいです。
- 食べられる食品が減る
- 十分な栄養が摂取できない
- 消化器官に負担がかかる
- 歯ぐきが傷つく
- 残存歯に負担がかかる
入れ歯を長時間装着していられない理由には、以下のようなものがあります。
- 入れ歯の違和感が強い
- 入れ歯が外れる
- 入れ歯で食事をすると痛い
- 入れ歯で食事をすると味がしない
- 入れ歯で食べ物がかみにくい
入れ歯を長時間使うためには、入れ歯に専門性をもつ歯医者で、ご自身の口腔内にマッチした入れ歯を作製することがはじめの一歩です。それでも入れ歯の不快感が消えない場合には、自費の入れ歯や入れ歯以外の治療法に切り替えてもよいかもしれません。
入れ歯以外の治療法には、インプラントやインプラン義歯(インプラントオーバーデンチャー)、ブリッジなどがあります。

入れ歯の適正な使用時間は12〜18時間程度で、就寝中は入れ歯を装着しないようにしましょう。
入れ歯を食事の時だけ外してしまう理由は?
「入れ歯を入れると違和感が強い、すぐ外れて恥ずかしい、食事のたびに歯ぐきが痛む、味がしない気がする、そもそも食べ物がかみにくい」
こうしたつらさから、「結局、食事の時だけ外している」という方は少なくありません。ここでは、入れ歯の構造やかむ力の問題も含めて、なぜそんな状態になってしまうのか、その主な原因をわかりやすく整理します。
入れ歯の違和感が強い
入れ歯の違和感が強いと、食事や会話でストレスを感じ、入れ歯を外してしまう人も多いでしょう。
入れ歯の違和感の主要な原因は、入れ歯の異物感や入れ歯に慣れていないこと、合っていない入れ歯の使用などです。
入れ歯は、歯の部分の「人工歯(じんこうし)」、歯ぐき部分の「床(しょう)」、床と床をつなぐ「連結子(れんけつし)」、歯と入れ歯をつなぐ「支台装置(しだいそうち)」などから構成されます。
これらは入れ歯を快適に使用するために必要なパーツではあるのですが、入れ歯そのものが大きくなってしまい、異物感や違和感につながってしまうことがあります。
新しく入れ歯を作製した場合には、適切な入れ歯であっても、慣れるまでに時間がかかります。
また、不良な入れ歯の使用によって違和感が生じていることもあります。
入れ歯が外れる
食事中に入れ歯が外れたり浮いたりするトラブルは、「恥ずかしい思いをしたくない」という不安につながり、かえって食べるときだけ使う、あるいは全く使わない原因になります。
入れ歯が外れる主な要因は、① 歯医者に問題がある、② 患者さんに問題がある場合、③ 仕方がない、の3つに分けられます。
歯医者に問題がある場合とは、入れ歯を作った歯医者が入れ歯治療に対する専門的な知識を持っておらず、適切な入れ歯を作製できていないことが考えられます。
患者さんに問題がある場合とは、歯医者から指導された使用法などを守っていなかったり、入れ歯の調整のために歯医者に通院していないかったりすることがあるでしょう。
仕方がないのは、顎の骨が極端に痩せてしまったり、唾液の量が少なくなったりしてしまって、入れ歯の安定がどうしても難しくなってしまう場合です。
入れ歯で食事をすると痛い
入れ歯で食事をすると痛みが出る場合、入れ歯の一部が歯ぐきを強く圧迫していたり、かみ合わせがずれて局所的な負担が大きくなっていたりすることが多いです。
痛みを避けるために食事の時だけ外すと、一時的には楽でも、長期的には口腔機能の低下につながります。痛みを我慢するのではなく、歯医者に相談して小さな調整を何度か繰り返すことが大切です。
入れ歯で食事をすると味がしない
「入れ歯で食事をすると味がしない」と感じる患者さんも少なくありません。
味は、口腔内に存在する「味蕾(みらい)」という場所で感じています。味蕾の大部分は下に存在しますが、一部は口蓋(こうがい)にもあります。
上の総入れ歯では、入れ歯が口蓋を覆ってしまうため、口蓋にある味蕾が味を感じにくくなってしまうことがわかっています。
口蓋を覆うタイプの入れ歯を装着している人のうち、60%弱の方が味覚の異常を訴えています。
一方で、実際には味覚は低下していないというデータも存在します。合わない入れ歯の使用など、食事が楽しくなくなるような環境が続くことで、食事がおいしくないと感じる人が増えるのでしょう。

入れ歯で食べ物がかみにくい
入れ歯で食べ物がかみにくい理由には、前述したように入れ歯が外れやすかったり、入れ歯と歯ぐきが強く当たって痛かったりする場合が考えられます。
しかし、外れにくい入れ歯で、食べ物をかんでも痛くない場合でも、入れ歯で食べ物がかみにくいと訴える患者さんはいます。
一つ目の原因は、入れ歯のという治療法の限界です。優れた入れ歯でも、自分の歯に比べて強くかめません。
自分の歯が全てある人の咬合力(かむ力)を100%とすると、部分入れ歯の人は約35%、総入れ歯の人は約11%の力でしかかめません。
もう一つの原因は、入れ歯そのものではなく、ご飯を食べる力(咀嚼筋:そしゃくきん)自体が弱っているケースです。お口の老化のことをオーラルフレイルといい、近年問題になっています。
そのほかにも複数の原因が考えられますが、まずは外れにくく、痛くない入れ歯を作ることが第一です。
Rehabilitation of biting abilities in patients with different types of dental prostheses
食べるときだけ入れ歯を使う理由は?
食べるときだけ入れ歯を使う理由はなんでしょうか?
筆者が実際に歯科治療をしていて、よく聞く理由を二つ紹介します。
入れ歯を入れていると疲れるから食事以外は外す
一日中入れ歯を装着していると、顎の筋肉や口唇、頬の筋肉などが疲れると感じる患者さんがいます。
入れ歯の主な役割は審美(見た目)と食事、発音です。これらをしないときは、入れ歯を外しておいても問題はありません。
しかし、あまりにも長時間入れ歯を装着していない時間が続くと、歯の位置や歯ぐきの形が変わってしまい、入れ歯がはまらなくなってしまう可能性があります。
硬いものを食べたいときだけ入れ歯を入れる
普段の食事は柔らかいもの中心にして、硬い食べ物を食べるときだけ入れ歯を装着するという方もいます。ある程度自分の歯があれば、入れ歯がなくても食事は食べられるでしょう。
ですが、入れ歯を外した状態での食事は、残っている歯や歯ぐきに大きな力がかかり、歯を失うのリスクを高めてしまうことがあります。
大臼歯とよばれる奥歯を失った状態では、咀しゃく効率(ご飯をかむ効率)が半分程度になってしまいます。入れ歯がなくてもご飯は食べられると感じるかもしれませんが、実際には咀しゃく機能が低下していることもあるので注意が必要です。
Biting and chewing in overdentures, full dentures, and natural dentitions
入れ歯の正しい着脱方法と装着時間
入れ歯は日中のみ使用し、夜間は外しておくことが原則です。
本項では、入れ歯を使用しないことが許される場面や、夜間に入れ歯を装着してよいイレギュラーなケースを紹介します。
正しい入れ歯の着脱方法と装着時間についても解説します。
入れ歯を「食事の時だけ外す」「食べるときだけ使う」ことが許される場合
基本的に、入れ歯を「食事の時だけ外す」「食べるときだけ使う」という使い方は想定されていませんが、「食べるときだけ使う」のは、問題はあまりないでしょう。
一方で、「食事の時だけ外す」のは、十分な食事を食べられない可能性や、残っている歯へ過剰な負担がかかってしまう可能性があります。
例外的に、歯を抜いた直後や新しく入れ歯を入れた直後などでは、痛みがあった場合は外しておくように歯医者に指導されることがあるかもしれません。
歯医者の指示に従い、不明点があれば随時確認すると安心です。
入れ歯の正しい着脱方法
入れ歯は、指で軽く押し込んで粘膜にぴったり吸着させるのが基本です。
総入れ歯の場合は、上顎の義歯を先に装着し、次に下顎を入れると簡単です。
部分入れ歯では、バネの部分を歯に合わせて、指で金属部分を押し入れます。
入れ歯の正しい入れ方と外し方については、下記の記事で紹介しています。

入れ歯の装着時間の目安

一般的には、日中は入れ歯を装着し、毎食後に口腔内と入れ歯の清掃のために一時的に入れ歯を外します。就寝前は入れ歯外して、就寝中に口腔粘膜を休めるのが標準的な方法です。
入れ歯の装着時間の目安は、12〜18時間程度となるでしょう。
食事や会話などをする予定がない場面では、必ずしも入れ歯を装着している必要はなく、目安時間を下回っても問題はありません。
就寝中は入れ歯を使わないほうが良い理由
就寝中に入れ歯を装着し続けるデメリットは3つあります。
- 睡眠の質が低下する
- 誤嚥性肺炎の発症リスクが約2.4倍増加する
- 義歯性口内炎の発症リスクが約3倍増加する
義歯性口内炎とは、入れ歯が当たっている歯ぐきが細菌感染などにより赤くただれ、ヒリヒリする病気です。誤嚥性肺炎は、細菌を含む唾液などが誤って肺に入ってしまい、肺炎を引き起こしてしまう病気です。
就寝中は唾液の分泌量が減少し、口腔内が不潔になりやすいです。特に入れ歯の表面では、細菌やカンジダなどの真菌が増えやすくなります。その結果、義歯性口内炎や誤嚥性肺炎のリスクが増加します。
夜間に入れ歯を外すことで、歯ぐきに加わる刺激が減少し、日中に受けたダメージの回復にも役立ちます。
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就寝中に入れ歯を装着してもよい例外
有床義歯補綴診療のガイドラインによると、夜間に入れ歯を装着する例外が4つ記載されています。
- 就寝中の歯ぎしりによって、残っている歯に過剰な負担が生じる場合
- 残っている歯が歯ぐきにぶつかることで、歯ぐきを傷つけてしまう場合
- 顎の関節に過剰な負担がかかってしまう場合
- 部分入れ歯を装着することで、弱っている歯を保護できる場合
いずれも、歯医者からの指示があった場合のみ実施するようにしましょう。
入れ歯を「食事の時だけ外す」「食べるときだけ使う」メリット
入れ歯を「食事の時だけ外す」と、痛みや違和感から解放され、ストレスが軽くなったり、特に上あごの入れ歯では味や温度を感じやすくなったりすることがあります。また、「食べるときだけ使う」ことで食事のときだけはしっかり噛める安心感が得られ、一時的に歯ぐきを休めることもできます。
ここでは、こうしたメリットを整理しつつ、その本当の意味を解説します。
食事の時だけ外すメリット①:入れ歯によるストレスがなくなる
患者さんの立場から見ると、食事の時だけ入れ歯を外すと、痛みや違和感を抱かずに済むため、心理的なストレスから解放されるというメリットがあります。特に、合っていない義歯で噛むと噛むたびに歯ぐきが傷つき、食事のたびに憂うつな気持ちになることもあります。
その結果、「いっそ食事の時は外してしまおう」と考えるのは自然な反応です。ただし、これは本質的な問題の解決ではなく、一時的な対処法に過ぎません。
ストレスの原因となっている入れ歯を治さなければ、口腔機能の低下や栄養状態の悪化という新たな問題を招く可能性があります。
食事の時だけ外すメリット②:味を感じやすくなる
特に上顎の大きな入れ歯では、入れ歯を外して食事をすることで、口蓋に食べ物が直接触れるため、味や温度をはっきり感じやすくなることがあります。特に味覚を大切にしたい方や、香りを楽しむ食事が好きな方にとっては、これは大きな利点に思えるかもしれません。
しかし前述したとおり、入れ歯と味覚の関係は単純な話ではありません。一番大切なのは、まずは歯医者で適切な入れ歯を作ってもらうことです。
食べるときだけ使うメリット①:食事が食べやすい
普段は外しておき、食べるときだけ使うことで、「食事のときだけはしっかり噛める」という安心感を得られるケースもあります。
入れ歯の役割のうち、咀しゃく機能(食べ物をかんですりつぶす機能)は大きな割合を占めます。食事中に使うだけでも、入れ歯を使用する価値はあるでしょう。
食べるときだけ使うメリット②:歯ぐきを休めることができる
入れ歯を外している時間が長いと、歯ぐきや歯を休める時間が長く取れます。痛みがあるときや、新しく入れ歯を作った場合などでは、一時的に装着時間を減らすことで、痛みや炎症が落ち着くこともあります。
ただし、休ませる時間を増やすだけでは根本的な問題は解決しません。噛み合わせや義歯の形を見直し、必要に応じて再作製することが、長期的に歯ぐきを守るうえで重要です。
入れ歯を「食事の時だけ外す」「食べるときだけ使う」デメリット
入れ歯を「食事の時だけ外す」「食べるときだけ使う」習慣は、一見ラクなようで、食べられる食品が減り栄養不足や消化器官への負担を招き、歯ぐきや残存歯も傷めてしまう原因になります。
さらに、入れ歯に慣れにくくなり、発音のしにくさや見た目の問題も長引きます。長期間出し入れを繰り返すことで、いざ使おうとした時に「はまらない」リスクも高まります。ここでは、そのデメリットを具体的に解説します。
食事の時だけ外すデメリット①:食べられる食品が減る
食事の時だけ入れ歯を外すと、噛む力が大幅に低下するため、硬い食品やかみ切りにくい食品が食べにくくなります。
その結果、柔らかい麺類やおかゆ、パンなど、炭水化物を中心とした食生活に偏りがちになります。これは単に「好きなものが食べられない」という問題にとどまらず、食物繊維やタンパク質など、健康維持に必要な栄養素を十分に摂取できなくなるリスクにつながります。
本来、適切に調整された義歯を装着すれば、噛める食品の幅は大きく広がるはずです。食べられる食品が減ってきたと感じたら、歯科で入れ歯の見直しを行うサインと考えましょう。
食事の時だけ外すデメリット②:十分な栄養が摂取できない
かめる食べ物が限られると、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどのバランスが崩れ、低栄養やフレイルのリスクが高まります。
フレイルは、健康と要介護の狭間の状態で、心身が弱っている状態です。
高齢者では、噛めないことがきっかけで食事量が減り、体重減少や筋力低下につながることが複数の研究で指摘されています。摂取するカロリーも炭水化物が中心になってしまうことも問題です。
入れ歯を食事の時だけ外す習慣が続くと、見た目や会話だけでなく、全身の健康にも影響が出る可能性があります。栄養状態の悪化はさまざまな病気のリスクとなります。
噛みにくさを感じた時点で早めに歯医者へ相談し、治療や調整を受けることが重要です。
食事の時だけ外すデメリット③:消化器官に負担がかかる
入れ歯を外した状態では、食べ物を十分にかみ砕けないまま飲み込んでしまいがちです。大きな塊のままの食べ物は、胃や腸などの消化器官で細かく処理する必要があり、その分負担が大きくなります。
本来、口腔は「消化の最初の臓器」であり、歯や入れ歯でしっかりかむことが重要です。入れ歯を使わずに食事を続けることは、見えないところで消化器官に無理をさせている可能性があると理解しておきましょう。
食事の時だけ外すデメリット④:歯ぐきが傷つく
入れ歯を外した状態で硬いものやざらついたものを噛むと、直接歯ぐきや粘膜に力が加わり、傷や口内炎を作る原因になります。
義歯は本来、広い面積で力を分散させるための装置ですから、それを外してしまうと、かえって局所的な負担が増えるのです。歯ぐきの痛みを避けるために食事の時だけ外すのではなく、原因となっている入れ歯の調整や治療を優先するべきでしょう。
食事の時だけ外すデメリット⑤:残存歯に負担がかかる
部分入れ歯を使わずに食事をすると、残っている歯だけで噛むことになります。その結果、特定の歯に大きな噛む力が集中し、歯の破折や歯周病の悪化、歯の動揺を招くことがあります。
また、噛み合わせのバランスが崩れることで、顎関節や咀嚼筋にも負担がかかります。
本来、部分義歯は残存歯の負担を軽減しながら、歯列全体で食事を支えるための装置です。食事の時だけ外す習慣を続けると、結果的に「残っている大切な自分の歯」を失うリスクを高めてしまいます。
食べるときだけ使うデメリット①:入れ歯に慣れにくい
入れ歯は筋肉や脳が新しい装置として認識し、コントロールできるようになるまでに一定の時間が必要です。食べるときだけ使うような断続的な装着では、慣れるための練習時間が不十分となり、いつまでも違和感やトラブルが続きやすくなります。
歩き方を覚える靴と同じで、短時間しか履かない靴にはいつまでも慣れないのと似ています。日常の会話やテレビを見ている時間など、負担の少ない場面でも入れ歯を装着しておくことで、スムーズな舌の動きや噛み方が身につきやすくなります。
ある研究では、患者さんが入れ歯になれるまでの日数を調べています。
1か月以内に入れ歯になれるのは67%以上、2〜3か月が23%以上で、大多数の患者さんが3か月以内に入れ歯に慣れるとしています。
慣れないからこそ、適切な時間の使用が重要です。
食べるときだけ使うデメリット②:発音が悪くなる
入れ歯をつけたり外したりすると、舌や唇の位置がその都度変化し、発音パターンが安定しません。その結果、義歯を装着したときに「サ行」「タ行」が言いにくい、会話が聞き取りにくいといった問題が長引きます。
本来は、入れ歯を装着した状態で会話の練習を繰り返すことで、舌が新しい環境に適応し、滑舌も改善していきます。食べるときだけ使う習慣では、会話のトレーニングの機会が不足し、「話しにくさ」がいつまでも続きやすくなります。
食べるときだけ使うデメリット③:見た目に悪影響がある
入れ歯には食べ物を食べることと、発音をすること意外に、審美的な役割もあります。
とくに前歯を失った状態で過ごすと、口元を隠す癖がつき、表情が暗く見えたり、対人関係に消極的になったりすることがあります。
食べるときだけ使うデメリット④:入れ歯がはまらなくなる
入れ歯を長時間使わずにいると、その間に歯ぐきや顎の骨の形が少しずつ変化し、久しぶりに装着しようとしたときに「入らない」「痛い」と感じることがあります。
特に部分入れ歯では、残存歯がわずかに動くことで、バネのかかり具合が大きく変わることがあります。結果として、入れ歯を作製し直さなければならなくなるケースも少なくありません。
入れ歯は、適切な時間装着し続けることで安定した状態を保つ装置です。食べるときだけ使う習慣は、義歯の寿命を短くし、治療費や時間の負担を増やす可能性があります。
入れ歯を「食事の時だけ外す」「食べるときだけ使う」ことへの対処法
入れ歯を食事の時だけ外す・食べるときだけ使うという背景には、痛みや違和感、外れやすさなどさまざまな理由があります。
本項では、入れ歯の使用時間が短い状況を解消するための選択肢をまとめました。
- 歯医者に相談する
- 入れ歯を調整・修理する
- 新しい入れ歯を作る
- 自費の入れ歯に作り替える
- 入れ歯以外の治療法を選択する
- 入れ歯に慣れる
- 入れ歯安定剤を使用する
- 食材の大きさ・硬さを工夫する
- 食べにくい食品を知る
- 入れ歯を使った正しいかみ方を習得する
歯医者に相談する
入れ歯を食事の時だけ外す、食べるときだけ使うといった使い方には、必ず何らかの理由があります。その理由を患者さん自身だけで判断するのではなく、まず歯医者に相談することが重要です。
歯医者は口腔内の粘膜や残存歯の状態、義歯の適合を総合的に診査し、問題の本質が「調整で改善できるのか」「作り直しが必要なのか」「他の治療法が良いのか」を判断します。
保険・自費を含めた治療の選択肢や費用、診療に必要な時間なども相談できますので、遠慮なく受診してください。
入れ歯を調整・修理する
多くの場合、入れ歯の違和感や痛み、外れやすさは、歯科医院での調整や修理によって改善が期待できます。入れ歯の裏面をほんのわずか削るだけで、歯ぐきへの負担が減り、食事中の痛みが軽くなることも珍しくありません。
また、バネの締め直しや人工歯の高さ調整により、噛み合わせが整って食べ物をかみやすくなります。
割れやひびが入った義歯も、条件が合えば修理で対応できることがあります。トラブルがあるからといって「合わない入れ歯」と決めつけるのではなく、まずは調整という選択肢を検討する価値があります。
新しい入れ歯を作る
顎の骨や歯ぐきの形は年月とともに変化するため、長年同じ入れ歯を使い続けていると、どうしても適合が悪くなってきます。その場合、調整だけでは限界があり、新しい義歯を作製したほうが結果的に快適で安全なことも多いです。
保険の入れ歯でも、設計を工夫することで十分に噛みやすくできるケースがありますし、自費の入れ歯では材料や設計の自由度が高まり、薄くて違和感の少ないタイプを選ぶことも可能です。
新製作には時間と通院回数が必要ですが、「食事の時だけ外す」「食べるときだけ使う」習慣から抜け出すきっかけになります。
自費の入れ歯に作り替える
保険診療の入れ歯でどうしても違和感が強い場合、金属床義歯やシリコンデンチャーなど、自費の入れ歯に作り替えることで快適性が大きく向上することがあります。
金属床義歯は床を薄くできるため、口蓋を覆う部分のボリュームが減り、味覚や会話の違和感が軽減されやすいのが特徴です。
シリコンを用いた入れ歯は歯ぐきへの当たりが優しく、痛みが出にくい設計にすることができます。
もちろん費用の負担は増えますが、毎日の食事や会話の質を考えると、長期的には十分な価値があると感じる患者さんも多いです。
入れ歯以外の治療法を選択する
残存歯や顎の骨の状態によっては、ブリッジやインプラント、インプラント義歯など、入れ歯以外の治療法が適している場合もあります。
どうしても取り外し式の義歯に慣れない、強い嘔吐反射がある、しっかりとした力でご飯をかみたいといった患者さんにとって、ブリッジなどの治療は大きなメリットとなります。
ただし、インプラント治療には外科処置や費用負担が伴い、全身状態によっては適応にならないこともあります。歯科医と相談しながら、保険・自費を含め自分のライフスタイルに合った治療法を選択することが大切です。
入れ歯に慣れる
どんなに精密に作られた入れ歯でも、装着した直後から100%違和感なく使えるわけではありません。舌や頬、唇の動きが新しい義歯に慣れるまで、一定の時間が必要です。
有床義歯のガイドライン(入れ歯治療のルールブック)でも、「新義歯の順応には、新義歯装着後、一定期間必要である」と記載されています。
慣れるためには、食事のときだけでなく、テレビを見ている時間や家族との会話の時間にも入れ歯を装着し、口腔内での位置を安定させていくことが重要です。
硬いものからではなく、柔らかい食べ物や少量の食事から練習を始めると、トラブルが少なく済みます。「慣れないから外す」のではなく、「少しずつ慣らす」という発想に切り替えることが、長期的な成功につながります。
入れ歯安定剤を使用する
入れ歯安定剤は、義歯と歯ぐきのすき間を埋めて一時的に安定させるケア用品で、食事の時だけ外す必要性を減らす補助的な方法として有効な場合があります。ただし、安定剤はあくまで補助であり、合っていない義歯を根本的に治す治療ではありません。
長期間の連続使用は、口腔内の状態をさらに悪化させてしまう原因にもなり得ます。使用の方法や期間については歯科医に相談し、「調整や作り直しまでのつなぎ」として上手に活用することが大切です。
最新のポリグリップである「新ポリグリッププレミアムプラス 長時間安定&噛む力EX」は、持続時間とかみやすさが特徴の入れ歯安定剤です。
食材の大きさ・硬さを工夫する
入れ歯での食事に慣れるまでは、食材の大きさや硬さ、調理方法を工夫することで、食事中のトラブルを大きく減らすことができます。たとえば肉は薄くそぎ切りにして煮込む、野菜は小さく刻んで柔らかくゆでるなど、「噛み切りやすさ」「つぶしやすさ」を意識した調理が有効です。
前歯だけでかみ切るのではなく、左右の奥歯をバランスよく使うことで義歯が安定し、違和感や痛みも軽減しやすくなります。このような工夫をすることで、「食べるときだけ使う」義歯から「いつも使える」義歯へと一歩近づけます。
食べにくい食品を知る
義歯にとって食べにくい食品を知っておくことも、トラブルを防ぐうえで重要です。
たとえば、キャラメルやガムのようなねばつく食べ物、ナッツ類などの硬い食品、葉物野菜などの薄くてかみ切りにくい食品は、入れ歯にとって苦手な食べ物です。
完全に禁止というわけではありませんが、調理方法を変えたり、食品の大きさを調整したりするなどの工夫が必要です。自分の入れ歯で特にトラブルが起こりやすい食べ物については、診療時に歯医者に相談してみましょう。
入れ歯を使った正しいかみ方を習得する
入れ歯は、自分の歯とは違う「かみ方のコツ」が必要です。前歯で噛みちぎるのではなく、口を大きく開けすぎない範囲で一口の量を少なくし、左右の奥歯で同時に噛むよう意識すると、義歯が安定しやすくなります。
また、急いで飲み込まず、ゆっくりとよく噛むことで、食べ物が細かくなり、消化器官への負担も減ります。こうした正しいかみ方は、歯科医院で実際に食材を使って練習することも可能です。
「入れ歯が悪い」のではなく、「使い方を練習する」という視点を持つことが、長く快適に義歯を使うための鍵です。
入れ歯で食事をするなら毎日の手入れが大切
入れ歯ので食事をする際に必須になるのが、食後の入れ歯のケアです。
毎食後のケアと、就寝前の丁寧なケアが入れ歯を清潔に保つには必要です。まずは、入れ歯洗浄剤や入れ歯用歯ブラシなど、適切な入れ歯ケア用品をそろえましょう。
入れ歯の正しいケア方法については、下記の記事で網羅的に解説していますので、是非ご覧ください。

食後の正しい入れ歯ケア
入れ歯で快適に食事を続けるには、食後の手入れが欠かせません。
食事のたびに義歯を外し、流水下で食べかすや汚れをよくすすぎ落とします。その際、落下による破損を防ぐため、水を張った洗面器の上で行うと安心です。
食後すぐが難しい場合でも、1日に1回はしっかりと洗浄する時間を確保しましょう。適切な食後ケアを続けることで、口臭や粘膜の炎症、カンジダ感染のリスクを下げることができ、快適に入れ歯を使用できます。
入れ歯用歯ブラシ・義歯ブラシの使い方と選び方
入れ歯の洗浄には、専用の義歯ブラシや入れ歯用歯ブラシを使うことが推奨されます。通常の歯ブラシでも代用できますが、毛先が硬すぎるものは義歯の表面を傷つけ、汚れや菌が付着しやすくなるため注意が必要です。
歯磨き粉には研磨剤が含まれていることが多く、入れ歯の素材には不向きなため、できれば水や義歯用の洗浄剤と併用してブラッシングするのが安全です。
床の裏面やバネの周りなど、汚れが溜まりやすい部分を意識しながら、毎日の習慣として優しく丁寧に磨きましょう。
おすすめの入れ歯用歯ブラシは、ライオデント義歯ブラシです。
入れ歯洗浄剤の使い方と選び方
ブラシによる機械的な洗浄に加え、入れ歯洗浄剤を用いた化学的洗浄を併用することで、バイオフィルムや細菌、真菌をより効果的に減らすことができます。
アルカリ性の発泡タイプや酵素タイプなどがあり、義歯の材質や変色の程度に合わせて選ぶことが大切です。過度な漂白成分を含むものを長時間使用すると、変色やひび割れの原因になることがあるため、使用方法をよく読み、指示された時間を守りましょう。
機械的清掃と化学的清掃の併用が、粘膜炎の予防に有効であることが報告されています。
ロート ピカとスマイルデントプラスはおすすめの入れ歯洗浄剤です。
歯ぐきと残っている歯のケア
入れ歯のケアと同じくらい重要なのが、歯ぐきと残存歯のケアです。残っている歯には、通常のブラッシングに加え、歯間ブラシやデンタルフロスを用いて汚れを徹底的に除去することが大切です。
特に部分入れ歯の支えになっている歯は負担が大きいため、むし歯や歯周病を予防することが義歯の寿命を延ばすことにもつながります。定期的な歯科診療でのチェックも忘れずに受けましょう。
就寝中の入れ歯の保管方法
就寝中は入れ歯を外し、清潔な状態で保管することが推奨されます。原則は水中保管が推奨されますが、予備の入れ歯の保管は水中でなくてもよいでしょう。
水中保管は入れ歯の変形を防ぐメリットはありますが、頻回な水交換が必要で、怠ってしまうと入れ歯が不潔になってしまいます。
水中で保管する場合も、空気中で保管する場合も、保管ケースは毎日洗浄し、汚れやぬめりを残さないようにしましょう。正しい保管習慣を身につけることで、「食事の時だけ外す」「食べるときだけ使う」ではなく、一日を通して安心して使える入れ歯に近づいていきます。
入れ歯を「食事の時だけ外す」「食べる時だけ使う」のまとめ
入れ歯を食事の時だけ外す・食べる時だけ使う背景には、違和感や外れやすさ、痛み、味がしない・かみにくいなどの問題があります。
一時的にはストレスや歯ぐきの負担を減らせても、噛める食品の減少、低栄養や消化器への負担、残存歯や顎へのダメージ、入れ歯に慣れにくい・発音や見た目が悪くなるなど多くのデメリットがあります。
基本は日中しっかり装着し夜は外してケアを行うことが原則です。
違和感が続く場合は我慢せず歯科で調整や作り直し、必要に応じて自費義歯や他の治療も含めて相談し、正しいかみ方と手入れを身につけながら、自分に合った入れ歯の使い方を目指しましょう。
Q&A
入れ歯を「食事の時だけ外す」「食べる時だけ使う」に関連する質問を集めました。
- 部分入れ歯を外しっぱなしにしておくとどうなりますか?
-
部分入れ歯を外しっぱなしにしておくと、歯並びが変わってしまい、入れ歯が入らなくなってしまうことがあります。残った歯には過剰な負担がかかり、抜歯をしなければいけなくなることもあります。
- 部分入れ歯は常につけておくべきですか?
-
部分入れ歯は食後と就寝中は外します。入れ歯も天然歯と同様に、毎食後の清掃は必須です。毎食後に入れ歯を清掃してから口腔内に戻し、就寝中は入れ歯洗浄液に漬けてはぐきを休ませます。
- 部分入れ歯をつけっぱなしにしていいですか?
-
部分入れ歯はつけっぱなしにしてはいけません。毎食後は、入れ歯を清掃するために一時的に取り外します。歯医者から特別な指示がない場合には、就寝中には入れ歯は外します。
- 部分入れ歯の違和感を和らげるには?
-
部分入れ歯の違和感の原因はいくつも考えられます。違和感を和らげるためにまずやってほしいことは二つあります。一つ目は適切な入れ歯を使用することです。入れ歯に専門性がある歯医者で、適切な入れ歯を作製してもらいましょう。
二つ目は入れ歯に慣れる時間を設けることです。二週間から一か月程で多くの方は入れ歯に慣れてきます。すぐに諦めずに、入れ歯の使用時間を少しずつ延ばしていきましょう。
- 部分入れ歯は食事中に外すことがありますか?
-
基本的には、部分入れ歯を食事中に外すことはありません。食事中に部分入れ歯を外さなければいけない状況になってしまうのは、不適切な入れ歯を使用していることが原因かもしれません。
まずは歯医者に相談してみましょう。
- 義歯は食事の時だけ入れた方がいいですか?
-
義歯(入れ歯)は食事の時以外でも、無理のない範囲で使用することが好ましいでしょう。入れ歯は食べ物をかむ以外にも、審美性や発音に大きな影響を与えます。



出典:Amazon.co.jp

