入れ歯をしっかりと固定し、快適な日常生活をサポートする入れ歯安定剤。その代表的な製品であるポリグリップの正しい使い方をご存知でしょうか?
この記事では、歯科医師の視点から効果的なポリグリップの使用方法を詳しく解説します。クリームタイプとパウダータイプ、それぞれの特性を理解し、適量の塗布で最適なフィット感を得る方法を紹介。さらに、ポリグリップを使用する際の注意点や使用後の入れ歯のケア方法についても触れていきます。
入れ歯安定剤を初めて使う方でも安心できるように、具体的なステップをまとめていますので、正しい入れ歯生活のためにぜひお役立てください。
1分でわかる!ポリグリップの正しい使い方
クリームタイプのポリグリップは、強力な固定力と長時間の持続が特徴です。米粒大を目安に、最小限を適切な部位へ塗布します。一日あたりの使用回数は、原則一回までです。
パウダータイプのポリグリップは、薄く均等に塗ることが得意です。持続時間が短いため、毎食後に入れ歯を清掃したい方に適しています。一日あたりの使用回数に制限はないため、細かく塗り直す人にはポリグリップパウダーがおすすめです。
ポリグリップの使用後は、入れ歯と口腔内に付着した入れ歯安定剤をお湯でふやかし、義歯用ブラシや特別な洗浄剤でしっかり清掃することが必要です。
いずれのポリグリップも過剰使用は不快感につながるため、最小限の使用量を守ることが大切です。
ポリグリップの使い方│基礎知識編
入れ歯が動くことで生じる食事や会話時の不安、歯ぐきの痛みを和らげるために使われるポリグリップは、適切な使い方をマスターすることが重要です。
本項ではポリグリップを使う前に知っておきたい基礎知識をまとめました。
クリームタイプとパウダータイプそれぞれの特長や使い分け、ポリグリップの科学的効果、品質を保つための正しい保管方法などを解説しています。
ポリグリップを使う場面とは?
ポリグリップは、食事中に入れ歯が動いてしまう場合や、話しているときに入れ歯が外れてしまう場合に効果を発揮します。さらには、入れ歯が動くことで生じる歯ぐきの痛みを軽減するためにも使用されることもあります。
ポリグリップは入れ歯の安定性に不安を感じる場合に使用し、入れ歯の治療中や入れ歯を新しく作った場面で特に効果的です。
ただし、すべての入れ歯にはポリグリップが必要なわけではありません。入れ歯が安定していればポリグリップは不要ですし、歯医者で入れ歯調整を受けていない人がポリグリップを使用するのは不適切です。
ポリグリップの添付文書(説明書)には、次のように記載されています。
- 長期連用しないでください。連用する場合には歯科医師に相談してください。
- 歯ぐきがやせる等により不適合になった入れ歯を本品で安定させるのは一時的な場合とし、できるだけ早く歯科医師に入れ歯の調整を相談してください。
ポリグリップはセルフケア用品ではありますが、歯医者での入れ歯調整を受けている方や歯医者からの指示を受けている方を前提とした製品です。
入れ歯がそもそもフィットしていない場合には、歯医者での調整などが必須となります。ポリグリップは正しい使い方を理解し、シーンに応じて効果的に使用することが大切です。
ポリグリップの効果
ポリグリップをはじめとする入れ歯安定剤を有効活用することで、入れ歯を装着している人の食べ物をかむ力や、入れ歯の外れにくさ、食べ物をかむ効率を改善することが多くの研究で示されています。
ポリグリップなどの入れ歯安定剤を使用すると、入れ歯が外れにくくなり、食べ物をかみやすくなります。
ほかにも、ポリグリップには入れ歯と歯ぐきの間に食べ物が挟まりにくくなるという効果がうたわれています。
一般的には、入れ歯安定剤の使用により入れ歯と歯ぐきの間の食べかすは減少すると考えられていますが、差がないとする研究もあります。
A systematic review and meta-analysis to evaluate the efficacy of denture adhesives
ポリグリップの種類と選び方
ポリグリップには主にクリームタイプとパウダータイプがあります。

クリームタイプは塗るだけで簡単に使用でき、長時間安定した固定力を保ちます。簡単な使用方法が好みの方や強力な粘着力を希望する方におすすめです。
パウダータイプは均一に塗布することができる点がメリットです。クリームタイプでは、入れ歯安定剤を一部に出し過ぎてしまい、入れ歯が浮き上がってしまうことがあります。パウダータイプでは入れ歯が浮き上がる心配は少ないです。また、粘着力の持続時間が短いため、毎食後に入れ歯を洗浄する方に適しています。
ポリグリップの種類を選ぶ際は、使用する人のライフスタイルに応じて最適なタイプを選ぶことが大切です。自分に合うものを選ぶことで、快適かつ自然なフィット感を得ることができます。
ポリグリップの保管方法
ポリグリップ公式の添付文書には保管方法が次のように書かれています。
- 小児や第三者の監督が必要な方の見えないところ及び手の届かないところに保管してください。
- 直射日光の当たらない涼しく乾燥した場所に、キャップをしっかりとしめて保管してください。(本品の成分が分離することがあります。)
- 冷蔵庫等の低温下で保管すると本品が固くなり絞り出しにくくなります。 絞り出しにくくなった場合は、18~28℃まで温めることで改善します。
- 入れ歯の表面に水分が残ったままの状態で塗布するなどし、チューブのしぼり出し口を濡れたまま放置すると、内容物が固まって出せなくなる場合があります。キャップとチューブのしぼり出し口に水分をつけないようご注意ください。
- 小児や第三者の監督が必要な方の見えないところ及び手の届かないところに保管してください。
- 直射日光の当たらない涼しく乾燥した場所に、キャップをしっかりとしめて保管してください。(本品は吸湿性があります。)
- ノズルの先を濡れたまま放置すると、内容物が固まって出せなくなる場合があります。ノズルの先に水分をつけないようご注意ください。
ポリグリップの保管方法をまとめると以下のようになります。
子どもの手が届かない、直射日光を避けた涼しく乾燥した場所に保管し、ノズルの先端に水分が付かないように注意する。
クリームタイプとパウダータイプで保管方法は一部異なります。
クリームタイプは冷蔵庫に保管すると硬くなってしまうので注意が必要です。一方で、パウダータイプは湿気を吸って固まる性質があるので、使用しない際は冷蔵庫などの湿度が低い冷暗所に保管するとよいでしょう。
ポリグリップに使用期限はありませんが、固まってしまったポリグリップは使用しないようにしましょう。
ポリグリップの使い方│事前準備編
クリームタイプのポリグリップも、パウダータイプのポリグリップも、使用する前には口腔内と入れ歯の清掃が大切です。
入れ歯は入れ歯用ブラシと入れ歯用洗浄剤でしっかりと洗浄します。部分入れ歯を使用している方は、口腔内の歯磨きも忘れずに行いましょう。
クリームタイプの新ポリグリップと、パウダータイプのポリグリップパウダーには、使用前の準備で大きく異なる点があります。

クリームタイプでは入れ歯についた水分を拭き取ってから使用し、パウダータイプでは入れ歯に水分が残った状態で使用するということです。詳しい使用方法は、次項をご覧ください。
ポリグリップの使い方│製品選択編
ポリグリップには、大きく分けて二つのタイプが存在します。
クリームタイプは入れ歯安定剤の中では有名な製品で、ポリグリップといえば、新ポリグリップをはじめとするクリームタイプのポリグリップを想像するでしょう。
パウダータイプのポリグリップは、種類も少なくあまりメジャーではありません。しかし、入れ歯安定剤の使い過ぎを防ぐためには有用な製品です。
以下にそれぞれの製品の特徴をまとめます。
- クリームタイプのポリグリップの特徴
-
・使用方法が簡単で、場所を選ばない
・パウダータイプと異なり、周囲を汚しにくい
・効果の持続時間が長い
・一日あたりの使用回数は一回が原則
・毎食後の入れ歯の清掃は困難
- パウダータイプのポリグリップの特徴
-
・誰でも均一に入れ歯安定剤を塗布できる
・効果の持続時間が短い
・一日に何度も使用できる
・毎食後に入れ歯を清掃したい人には便利
クリームタイプのポリグリップの使い方
クリームタイプのポリグリップを効果的に使うには、使用量・塗布部位・使用頻度の3つが重要です。
米粒大を目安に最小限の量を適切な位置へ塗布し、入れ歯の設計や口腔内の状態に応じて調整します。添付文書では0.5〜3cmが推奨され、持続時間は3〜13時間程度。基本は1日1回使用ですが、快適性維持のために再塗布が必要な場合もあります。
クリームタイプの入れ歯安定剤(新ポリグリップ)の使用量
クリームタイプの入れ歯安定剤の適正な使用量を調べた研究は、筆者が知る限りではありません。
一般的には、一カ所につき米粒大程度の大きさで、全体として最小限の量を使用するとされています。

過剰に使用してしまうと入れ歯安定剤が溢れ出し、口腔内で不快感を招いたり、入れ歯が浮き上がったりしてしまう可能性があります。入れ歯の清掃も大変になってしまうでしょう。
新ポリグリップの添付文書によると、塗布量は0.5〜3cmとされています。総入れ歯では上限の3cm程度、小さな部分入れ歯では下限の0.5mm程度を使用量の目安にすると良いでしょう。
誤って入れ歯安定剤を多く使用してしまった場合、入れ歯の外にはみ出した入れ歯安定剤は、ガーゼなどで拭い取ってから使用します。

Aftercare of the complete denture patient
Evidence-based guidelines for the care and maintenance of complete dentures: a publication of the American College of Prosthodontists
クリームタイプの入れ歯安定剤(新ポリグリップ)を塗布する部位
入れ歯安定剤を塗布する部位についても、筆者の知る限り科学的なデータは存在しません。
基本的には、米粒大の入れ歯安定剤を、入れ歯の内面全体に、均等に配置するとよいとされています。
筆者独自のアドバイスにはなりますが、塗布する部位は入れ歯全体ではなく、使用している入れ歯の弱点を補うポイントだけに塗布してもよいと思います。
入れ歯の設計や口腔内の特徴により、それぞれウイークポイントは異なります。入れ歯に専門的な知識を有する歯医者に質問すれば、どこに塗布すれば最小限の使用量で、最大限の効果を得られるか答えてくれるでしょう。

クリームタイプの入れ歯安定剤(新ポリグリップ)の使用頻度と持続時間
クリームタイプのポリグリップの持続時間は3〜13時間程度です。クリームタイプのポリグリップの添付文書には、使用頻度は1日1回と記載されています。
1日1回の使用では、毎食後の入れ歯洗浄ができないだけでなく、日中の活動時間すべてを補うことができません。一日複数回ポリグリップを塗り直すことは公式には推奨されていませんが、入れ歯を快適に使用するためには致し方ないのかもしれません。
研究・論文では、一日あたりの推奨使用回数は明言されていませんが、一日一回の使用を前提としているものもあります。
パウダータイプのポリグリップの使い方
パウダータイプのポリグリップは、入れ歯安定剤を過剰に使用しないために有用な製品です。
ポリグリップパウダーの正しい使い方をマスターすることで、入れ歯の快適さが変わります。使用頻度や持続時間を事前に理解しておけば、パウダータイプの入れ歯安定剤の使いどころがわかるでしょう。
ポリグリップパウダーの塗布量
ポリグリップパウダーの塗布量は、入れ歯の表面に均一に広がる程度が理想です。過度に使用すると、口腔内に余分なポリグリップが残る可能性があり、不快感につながります。
ポリグリップパウダーは、入れ歯表面に均一になるように、薄く振りかけます。
初めて使用する場合は少量から始めて、効果を確認しつつ量を調整するとよいでしょう。塗布しすぎてしまった粉末は、入れ歯をひっくり返し、たたくようにして落とします。

塗布する部位
ポリグリップパウダーは、入れ歯と歯ぐきに接触する部分(義歯床)に均一に振ることがポイントです。使用中に入れ歯がずれにくくなるように、入れ歯の内面全体に行き渡らせましょう。

使用頻度と持続時間
パウダータイプの持続時間は、使用状況や食事の内容によって異なりますが、通常は3〜4時間程度です。クリームタイプより持続時間が短いため、毎食後に入れ歯洗浄をしたい方におすすめです。
ポリグリップパウダーは一日あたりの使用回数に制限はなく、効果の持続時間は約3〜4時間です。
クリームタイプのポリグリップは、一日一回までの使用を原則としますが、ポリグリップパウダーには一日あたりの使用回数に制限はありません。
ポリグリップの使い方│使用後のケア編
入れ歯安定剤を快適に活用するには、使用後の清掃が欠かせません。
ポリグリップを落とす正しい方法を知ることで口腔内と入れ歯を清潔に保ち、専用ブラシや洗浄剤を活用すればケアの効率も高まります。さらに毎食後に入れ歯を外して清掃する習慣を身につけることで、快適な入れ歯生活を長く続けられます。
入れ歯安定剤使用後の清掃方法
ポリグリップを使用した後は、丁寧に入れ歯清掃することが大切です。
添付文書には以下のように記されています。
- 製品が口の中に残っていたら、お湯で口をすすいで製品を溶かしてから、乾いたガーゼなどで拭き取ってください。
- 入れ歯に製品が残っていたら、入れ歯をぬるま湯につけて製品を溶かし、ティッシュなどで拭き取ってください。さらに、ブラシなどを使って流水下でよくブラッシングしてください。
- 入れ歯に製品が残っていなくても、入れ歯はブラシなどを使って洗浄してください。
メーカー公式のポリグリップの落とし方をまとめると、「口腔内と入れ歯に残ったポリグリップはお湯でふやかし、義歯用ブラシなどをつかって洗浄する」という方法が正しいです。
ポリグリップのケアにおすすめの道具
ポリグリップのケアにおすすめな製品は二つです。
まずは各種ブラシです。口腔内にはスポンジブラシ、入れ歯には義歯用ブラシを使用しましょう。歯ブラシで歯ぐきを磨くと、傷つけてしまう恐れがあります。入れ歯の清掃に通常の歯ブラシを使用すると、十分に清掃できない場合が考えられます。
次に専用の入れ歯洗浄剤です。「デントロ クリーンムース」という入れ歯洗浄剤は、入れ歯安定剤を化学的に溶かします、デントロクリーンムースを入れ歯に吹きかけ、義歯用ブラシでこすることで、入れ歯に残ったポリグリップを簡単に落とすことができます。
これらの専用の道具を使用することで、入れ歯ケアがより簡単で効果的になり、快適な入れ歯生活をサポートします。
正しい入れ歯の清掃頻度
入れ歯の清掃は、毎食後が推奨されます。と入れ歯を口腔内に装着したまま歯磨きをすることはできませんので、毎食後入れ歯を外し、歯磨きと入れ歯の清掃を行う必要があります。
専門家からのアドバイス
初心者向けの使い方
ポリグリップを初めて使用する方は、少量から始めることをおすすめします。入れ歯の噛み合わせやフィット感に注意しながら、徐々に塗布量を調整してください。クリームタイプの場合は、全体に薄く均一に塗布し、適度な量を探ります。初めは装着感に違和感があるかもしれませんが、専門家が示す正しい方法を実践することで、よりスムーズに快適さを実感できるようになります。
継続使用による影響
ポリグリップを継続使用することで、入れ歯の安定感が増し、日常生活が一層快適になります。ただし、長期間の使用は入れ歯そのものに問題がある可能性があります。定期的に歯科医師の診察を受け、適切な使用方法を確認し、必要であれば調整を依頼することが重要です。継続使用によるメリットを活かすためにも、状況に応じた使用方法を心掛けましょう。
トラブルシューティング
ポリグリップの使用により、口内の不快感や入れ歯の外れやすさなど、トラブルが生じる場合があります。このような場合は、まず塗布量や方法を見直してみましょう。使用量が多すぎると不快感を伴うことがあり、少なすぎると効果を十分に発揮できません。再調整しても問題が続く場合には、製品に問題がある可能性も考慮し、歯科医師に相談することをおすすめします。
安全に使うためのヒント
ポリグリップを安全に使うためには、予め成分を確認し、アレルギーの有無を確かめてください。また、必ず正しい量を使用し、毎日の習慣に加えることで過度の使用を避けられます。使用後の入れ歯はしっかり清掃し、口腔内の健康を保つよう心掛けましょう。保存状態にも気を配り、直射日光や高温を避けて保管することで長期間安心して使用できます。
歯科医師に相談すべき場合
ポリグリップを使用していて、痛みや口内の不快感、入れ歯のズレが解消しない場合は、歯科医師に相談することを強くおすすめします。入れ歯のフィット感に問題がある可能性もあり、専門家の診察が必須となる場合があります。自己判断で使用を続けると口腔内のトラブルを悪化させる恐れがあるため、早めの相談と適切なアドバイスのもと、最適な使用方法を確認することが重要です。
まとめ│ポリグリップの使い方
この記事では、ポリグリップの適切な使用方法について詳しく説明しました。ポリグリップにはクリームタイプとパウダータイプがあり、それぞれの特性を理解して選ぶことが重要です。使用前の準備としては、塗布する部位を清潔にし、適切な量を守ることが求められます。使用頻度と持続時間も考慮しながら、快適な使用を心掛けます。また、ポリグリップを使用した入れ歯は、入れ歯洗浄剤を用いて定期的に清掃することが推奨されます。これにより、長く清潔な状態を維持できます。問題が発生した場合や使用方法に疑問がある場合、専門家への相談は非常に有益です。トラブルシューティングの際には、専門的なアドバイスを積極的に取り入れ、安全かつ快適にポリグリップを活用してください。このように正しい使い方をマスターすることで、入れ歯の安定感を向上させ、日々の生活の質を高めることができます。