日本では、生活保護制度を利用して経済的な負担を軽減しながら医療を受けることができますが、入れ歯治療についてはどうなのでしょうか。
この記事では、生活保護制度の基本から、歯科医院の受診方法、入れ歯治療時の費用負担に至るまで、生活保護受給者の歯科治療について詳しく解説します。自費治療を選択する場合や、自己負担が発生する場面についても紹介します。
- 生活保護制度、医療券、生活保護指定医療機関について
- 生活保護制度の医療扶助の対象範囲
- 生活保護受給者が入れ歯を作る際の費用
「生活保護で入れ歯治療を受けられるのか?」の結論

生活保護制度における医療扶助を利用するためには、生活保護申請と医療券の発行が必要です。発行された医療券は、生活保護指定医療機関でのみ使用できます。
生活保護制度では、生活保護指定医療機関において、保険収載されている医療行為を「窓口負担なし」で受けることができます。
一般的な入れ歯治療は保険治療が可能なことから、生活保護でも入れ歯の作製や調整、修理などが可能です。自費治療の入れ歯や、入れ歯ケア用品の購入は費用負担が必要です。
歯科治療における生活保護の基礎知識
本項では生活保護制度の基本的な内容を解説します。生活保護の申請から、医療券の取得、医療機関を受診するまでの流れをまとめました。
生活保護制度とは?
生活保護は、国が生活に困っている人々に対して最低限度の生活を保障し、自立を支援するための制度です。この制度は、収入が一定水準を下回る場合に、健康で文化的な生活を維持するための扶助を提供します。
支援を行い、助けること。
生活保護制度は生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助などいくつかの扶助から成ります。医療扶助により、医療費の負担が軽減され、入れ歯治療をはじめとした歯科治療治療を受ける際の窓口負担が不要になります。
生活保護申請と審査の流れ

生活保護制度の利用には一定の条件が設けられています。申請者の状況や家計の詳細を正確に伝えることが、支援を受けるための第一歩です。
生活保護を申請する場合、最寄りの自治体の福祉事務所で手続きを行います。
申請時には本人確認書類や収入・資産の状況が分かる資料などが必要になります。必ずしも全ての資料がそろっていなくても、申請ができる場合がありますので、まずは福祉事務所で相談することが大切です。
生活保護の審査では、収入や資産の有無、扶養義務者の状況、現在の生活費などが確認されます。例えば、預貯金や不動産、自動車などの資産がある場合、それらを活用できるかどうかが問われます。また、親族に扶養できる方がいるかも審査の重要なポイントです。
申請後、原則14日以内に生活保護受給の適否が決定します。
生活保護制度で歯科治療を受けるには医療券が必要
生活保護を受給している方が医療扶助を受けるには、まず福祉事務所に申請する必要があります。歯科医院を受診する前に、希望する歯科医院が生活保護法の指定医療機関であるか確認し、受診内容について事前に福祉事務所へ相談します。
申請内容に問題がなければ医療券が発行されます。歯科医院を受診する際は、健康保険証と医療券を持参することを忘れないようにしましょう。

歯科治療は生活保護指定医療機関で受けられる
生活保護受給者が医療扶助を活用して治療を受ける場合、指定医療機関として承認されている歯科医院を選ぶ必要があります。
生活保護指定医療機関は、厚生労働省が運用する「医療情報ネット(ナビイ)」から検索が可能です。左上の検索窓に「豊島区 歯科 生活保護」のように入力し、検索すると、お住まいの地域の生活保護指定医療機関が検索できます。
生活保護制度が利用できる治療とは
生活保護制度の医療扶助では、医科・歯科問わず、保険収載されている医療行為を窓口負担なしで受けることが可能です。
歯科治療においては、虫歯治療や歯周病治療、欠損補綴治療(ブリッジや入れ歯)、抜歯などが医療扶助の対象です。それぞれの治療法に自費治療を選択することも可能ですが、その際には医療扶助の対象外となります。
生活保護制度の対象となる入れ歯治療の範囲
生活保護制度において医療扶助が適用される範囲には、一般的な入れ歯治療も含まれています。保険治療での入れ歯の製作や修理、調整などは医療扶助の対象です。

訪問歯科や口腔外科、矯正歯科などの特殊な診療科と生活保護
生活保護受給者に対する歯科治療は、一般歯科診療と同様に、その必要性が認められた場合には訪問歯科や口腔外科など特殊な診療も認められています。
訪問歯科の利用には介護保険を併用する場合もありますので、事前に福祉事務所に相談するとよいでしょう。生活保護制度では医療扶助だけではなく、介護扶助を受けることも可能です。
一方、矯正歯科治療に関しては、原則として生活保護の医療扶助としては認められません。なぜなら矯正歯科治療の多くが保険適用外となっているからです。しかし先天的な骨格の異常を認めた場合には、保険治療で矯正治療が可能となり、その際には生活保護制度で矯正治療が行えることになります。
生活保護での入れ歯治療にかかる費用
生活保護制度を利用することで、保険治療の入れ歯を窓口負担なしで作製できます。一部自己負担が必要な場面もありますので、事前に確認しておきましょう。
生活保護制度で自費の入れ歯治療を受ける場合の費用
入れ歯治療にかかわらず、自費治療は医療扶助の対象外であるため、全額自己負担となります。
自費治療で製作することが多い入れ歯を以下に列記します。
- 金属床義歯
- ノンメタルクラスプデンチャー
- インプラントオーバーデンチャー
- コーヌスクローネ義歯
保険で製作する入れ歯の多くは、レジン床義歯(れじんしょうぎし)と呼ばれます。
入れ歯のケア用品は実費の費用負担が必要

入れ歯を管理するための物品の購入費用は生活保護の医療扶助の対象外です。入れ歯を保管するための義歯ケースや、入れ歯を洗うための義歯用ブラシや義歯洗浄剤などは実費の負担が必要です。
入れ歯のケア用品については、必ずしも歯科医院で買う必要はないため、歯科医師のアドバイスを聞いた上で、ドラッグストアなどで購入してもよいでしょう。
生活保護受給者が通える歯医者の見つけ方と「お断り」されないためのコツ
近くの生活保護指定医療機関は前述したとおり、「医療情報ネット(ナビイ)」から検索が可能です。福祉事務所に問い合わせることで、生活保護指定医療機関を探してもらうこともできます。
生活保護指定医療機関であれば、「生活保護お断り」とされることはありません。
生活保護指定医療機関としての認可を受けるかどうかは、歯科医師の考え方によるところが大きいです。生活保護指定医療機関でない歯医者では、「生活保護お断り」とせざるを得ません。
生活保護の受給の有無にかかわらず、予約時間を守ることや直前のキャンセルをしないこと、無理難題を押しつけないことなどは、通院する歯医者と上手く付き合っていくために大切です。
「生活保護で入れ歯治療を受けられるのか?」のまとめ
生活保護制度では、医療扶助を通じて歯科治療も支援の対象とされており、入れ歯の作製や調整に伴う費用が公的に補助されます。しかし、治療を受けるためには手続きが必要であり、事前に地域の福祉事務所に相談することが求められます。受診できる歯科医院は指定医療機関に限定されるため、事前の確認が重要です。自己負担が生じる場合もあるため、どのようなケースが対象外となるかを知っておくことも大切です。
Q&A
「生活保護で入れ歯治療を受けられるのか?」に関連した質問を集めました。
- 生活保護受給者ですが治療は可能ですか?
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まずは福祉事務所に医療券を申請してください。医療券と健康保険証を持参することで、生活保護指定医療機関の受診が可能となります。
- 生活保護だと歯医者に断られますか?
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生活保護医療券が使用できるのは、生活保護指定医療機関のみです。医療券を使用したい場合には、生活保護指定医療機関以外の歯医者では治療を断られるでしょう。
- 生活保護医療券を忘れてしまいました
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生活保護医療券を忘れた場合の対応は歯医者によって異なります。通常では医療扶助分の3割を請求される場合が多いです。後日医療券を持参することで、返金が可能です。
- 生活保護指定医療機関を受診するための交通費は支給されますか?
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一般的には居住地の近くの医療機関を受診することになっているため、交通費がそもそも発生しないことも考えられます。最低限必要な交通費については、医療扶助の一部として認められることがあります。
- 生活保護受給者が選べる治療ってどういうものですか?
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生活保護受給の有無にかかわらず、どのような治療でも受けることが可能です。ただし、健康保険や医療券を使用しようと思うと、治療内容に制限が生じます。窓口負担なく治療できるのは、保険治療のみです。
- 生活保護受給者で自費診療をしたい場合はどうすればいいですか?
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受診する生活保護指定医療機関に相談してください。生活保護を受給しているからといって、自費治療が受けられないわけではありません。
- 生活保護だと他の人にばれたくない
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医療機関では個人情報が保護されているため、ほかの患者さんに生活保護だとばれる心配はありません。医療機関内(医療従事者に対して)では、保険請求の必要性から生活保護であることを隠すことはできません。
- 生活保護受給者でも医療費控除の対象になりますか?
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医療費控除は、医療機関窓口で支払った「自己負担分」に対する控除です。生活保護制度医療券を使用した場合には、窓口負担はありませんので、医療控除の適用にはなりません。