認知症の方に入れ歯を作成する前に確認したいことを歯医者が解説

入れ歯ナビ:認知症の方の入れ歯作成
遠藤眞次
この記事の執筆者
歯科医師兼歯科専門ライター。東京都池袋の歯医者「グランドメゾンデンタルクリニック」で診療しています。

認知症の方に入れ歯を作成すると聞くと、「本当に新しく作ってよいのか」「かえって使えなくならないか」と不安になる方は多いと思います。結論からいうと、認知症があっても入れ歯作成を一律にあきらめる必要はありません。ただし、すでに入れ歯があるなら、まずは修理や調整で対応できないかを先に考えることが大切です。

認知症では、新しい入れ歯に慣れること自体が負担になり、作っても実際の使用に至らないことがあるためです。

また、認知症の方の入れ歯治療では、口の中の状態だけでなく、本人が受け入れられそうか、家族や介護者の支えがあるかまで含めて考える必要があります。

この記事では、「認知症患者の義歯診療ガイドライン 2018」を中心に、入れ歯作成の流れを整理したうえで、認知症の方に入れ歯を作成する前に確認したいことと、実際に作成するときの注意点をやさしく解説します。

本記事で学べる歯科知識
  • 認知症の方の入れ歯作成のチェックポイント
  • 入れ歯作成の一般的な流れ
  • 認知症と入れ歯治療の関係
目次

1分でわかる!認知症の方に入れ歯を作成する前に確認したいこと

認知症の方に入れ歯を作成する前に、最初に確認したいのは今ある入れ歯を修理・調整して使えないかという点です。日本老年歯科医学会のガイドラインでも、中等度以上の認知症では、使用率の面からは新しい入れ歯を作るより、修理や調整の方が有利と考えられるとされています。新しい入れ歯は形が変わるため、受け入れにくくなることがあるからです。

次に大切なのは、本人が入れ歯を受け入れられそうか家族や介護者が着脱や清掃を支えられそうかです。認知症では、義歯の必要性を理解しにくくなったり、着脱や清掃が難しくなったりします。そのため、認知機能だけでなく、日常生活動作や介護環境も含めて総合的に判断する必要があります。

認知症があるから作れない、ではなく、負担と利点を見比べて決める姿勢が大切です。

認知症の基礎知識

認知症の方の入れ歯作成を考えるときは、単に「物忘れがある」ではなく、治療協力や衛生管理、意思決定に影響する病態だと理解することが大切です。

日本老年歯科医学会のガイドラインでも、認知症の進行に伴って口腔衛生管理、治療上の意思決定が難しくなり、健康な口腔を維持しにくくなることが示されています。入れ歯作成の判断も、認知症の特徴を理解した上で行う必要があります。

認知症とは?

認知症とは、記憶だけでなく、理解、判断、意思疎通、生活動作などが障害され、日常生活に支障が出る状態です。認知症は“身近な病気”であり、正常な老化の一部ではありませんが、根本的治療がないことから、歯科医療も生活支援の視点をもつことが重要です。

認知症の軽度・中等度・重度の目安

認知症の重症度は、家族の印象だけで決めるものではありません。日本では、Clinical Dementia Rating(CDR) が評価法として広く使われています。

CDRは、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域生活、家庭生活、介護状況の6項目を、本人や介護者からの情報をもとに総合して評価する方法で、1が軽度認知症、2が中等度認知症、3が重度認知症です。

認知症は連続した病態であり、軽度・中等度・重度を完全に線引きすることは難しい場合もあります。

認知症の重症度は、軽度、中等度、重度にわけれれます。
一般的に認知症の重症度が高くなると、入れ歯治療も難しくなると考えられます。

認知症疾患診療ガイドライン2017

軽度認知症

軽度認知症は、食事、着替え、トイレなどの基本的な身の回りのことはおおむね自分でできる一方で、買い物、支払い、金銭管理などの少し複雑な生活行為に支障が出てくる段階です。

家族からみると、「一人で生活はできているように見えるが、段取りやお金の管理、外での用事に不安が出てきた」と感じやすい時期です。

中等度認知症

中等度認知症は、基本的な日常生活動作にも障害が出はじめ、日常生活を送るうえである程度の介護が必要になる段階です。

家庭での日常生活でも自立が難しくなり、一人で買い物ができない、服が用意されていれば着られることはあっても、入浴を忘れることがある、などが具体例です。

家族からみると、「家の中でも手助けが必要になってきた」と感じることがあるでしょう。

重度認知症

重度認知症は、ほとんどの機能が失われ、常時介護を要する段階です。日常生活動作の障害が進み、絶えず見守りや介助が必要になり、身の回りの清潔を保つことが難しくなる状態を指します。

家族からみると、「生活のほとんどに介助が必要な状態」と考えるとわかりやすいです。

認知症と歯科治療の関係

認知症と歯科治療の関係で重要なのは、口の中の問題があっても本人がうまく訴えられないこと、治療協力や清掃が難しくなりやすいことです。

ガイドラインでは、認知症の進行に伴って、口腔衛生管理、治療上の意思決定が困難になり、歯科治療が一様に進めにくくなるとされています。

また、入れ歯治療では特に、治療中の協力だけでなく、装着後の着脱・清掃・保管もハードルになります。入れ歯を作作成したとしても、実際には使えない、外してしまう、管理できないといった問題が起こります。認知症の方の入れ歯治療は、作成そのものより、使用と管理まで含めて考える必要があります。

入れ歯作成の流れ

認知症の方でも、入れ歯作成の基本的な流れ自体は大きく変わりません。ただし、各段階で理解・協力・疲労への配慮が必要になる点が大きな違いです。型取り、かみ合わせの決定、歯並びの確認、完成後の装着という流れのなかで、どこで負担が大きくなりそうかを事前に見極めることが大切です。

認知症では治療協力が難しくなり、調整しても実際の使用に至らないことがあるため、一般的な入れ歯治療以上に「今その治療が本当に必要か」を考えながら進めます。

認知症の場合の入れ歯作成の手順は、印象採得、咬合採得、試適、装着の順番です。
認知症の方の場合でも基本的な入れ歯作成の手順は変わりません。

印象採得(型取り)

型取りは、入れ歯を作るための最初の大切な工程です。歯や歯ぐきの型を取り、入れ歯を作成する土台となる、患者さんの口腔内の模型を作成します。

入れ歯治療は、通常の虫歯治療の印象採得とは異なる点があります。それは患者さんが「指示に従って口を動かす」必要があることです。専門的には機能運動といいます。

虫歯治療の型取りでは、基本的に「お口を開ける」ことができれば問題ありません。しかし、入れ歯治療の型取りでは、お口を開ける、お口を閉じる、舌を出す、歯ぎしりをする、などの動きが必要になってきます。

したがって、認知症の方では口を開け続けられるか、異物感に耐えられるかに加え、歯医者の機能運動の指示に応じられるかが重要です。

型取りそのものは短時間でも、口の中に材料が入るため、不安や拒否が出やすい場面です。認知症では治療協力が難しくなることがあり、こうした負担が新義歯作成全体のハードルになります。

咬合採得(かみ合わせの決定)

かみ合わせの決定では、上下の顎の位置関係を決めます。どのくらいの大きさの入れ歯を作れば審美的に良好か、どこでかんだほうがかみやすいかを決定します。

型取りと同様に、お口を開けたり閉めたり、顎を前に出したり、後ろに下げたりする必要があるので、歯医者の指示に合わせた動きを実践できるかが重要です。

咬合採得は認知症の方にかかわらず、非常に難しい工程です。認知症の方では、ここで指示に合わせて口を閉じる、開く、少し待つといった協力が得られるかがより重要になってきます。

かみ合わせの決定は見た目だけでなく、食べやすさや話しやすさにも関わるため、本来は丁寧に行いたい工程です。しかし、認知症では意思疎通や表現が難しくなり、違和感があっても伝えられないことがあります。

試適(歯並びの決定)

試適は、完成前の入れ歯を口に入れて、歯並びや見た目、かみ合わせを確認する段階です。今までの印象採得と咬合採得の結果が間違っていないか確認し、本当にこのまま入れ歯を作ってよいかを最終チェックする過程です。

認知症の方では、自身での判断が難しいこともあるため、家族などに同席をお願いし、患者さんの見た目のチェックをしてもらう場合もあります。

装着(新しい入れ歯の完成)

新しい入れ歯の完成はゴールのように見えますが、認知症の方では完成後に本当に使えるかどうかが最も大切です。義歯を製作・調整しても実際の使用に至らないことがあります。入れ歯が完成した時点で終わりではなく、そこから使い続けられるかが勝負です。

認知症の方に入れ歯を作成する前に確認したいこと

認知症の方に入れ歯を作成する前に最も確認したいのは、本人が入れ歯を受け入れられそうかと、家族や介護者の支えが見込めるかの2点です。

認知症の方の入れ歯治療では、認知機能だけでなく、ADL、口腔関連ADL、介護環境まで含めて総合的に判断する必要があるとされています。

本人が入れ歯を受け入れられそうか

本人が入れ歯を受け入れられそうかは、入れ歯作成前に最も大切な確認事項の一つです。重度以上の認知症では、入れ歯に対する認識、意思の疎通、ADL(日常生活動作)を参考に、入れ歯を使う利点とリスクを総合的に判断する必要があります。

「歯がないから入れ歯を作れば使うはず」と考えることには注意が必要です。新しい入れ歯を作っても受け入れられず、本人の負担だけが増えることがあります。

本人が受け入れられそうかは、口の中だけでなく、生活の様子から考える必要があります。

家族や介護者の支えが見込めるか

家族や介護者の支えが見込めるかも、認知症の方の入れ歯作成では非常に重要です。

入れ歯の作成は歯医者が行いますが、入れ歯の着脱や清掃については、家族や介護職などの手助けが必要な場合もあります。認知症は進行性の病態であり、患者本人による着脱や清掃は次第に難しくなるためです。

誰が着脱を手伝えるか、誰が洗浄を担えるか、紛失時に気づけるかを事前に確認することは重要です。本人だけで管理できる前提で新しい入れ歯を作成することは注意が必要です。

家族や介護者が、入れ歯の清掃方法や着脱方法を学ぶことも大切です。以下の記事をご覧ください。

認知症の方に入れ歯を作成するときの注意事項

認知症の方に入れ歯を作成するときの注意事項として、すでに入れ歯があるなら、まずは修理や調整を優先して考えるという点です。中等度以上の認知症では、使用率の面からは新義歯製作より修理・調整の方が有利と考えられるとされています。

新しい入れ歯は形が変わるため、使用感が大きく変わり、受け入れが難しくなることがあるからです。

すでに入れ歯があるなら、まずは修理や調整を優先して考える

すでに入れ歯があるなら、まずは修理や調整を優先して考えるべきです。ガイドラインでは、装着して使用できる義歯が存在するのであれば、まず調整・修理を行うことを推奨しています。

痛い場所の調整、割れた部分の修理、ゆるみへの対応など、小さな修正で今の入れ歯を生かせないか考えることが大切です。古くなってしまったからという理由だけで、すぐに新しい入れ歯の作成へ進むことは危険な場合もあります

認知症の方では、「新しい方がよい」とは限らない点を意識する必要があります。

特に直近で入れ歯を新しく作成し、その入れ歯を受け入れてもらえない場合には、入れ歯に慣れる期間が必要になることもあります。

入れ歯に慣れるまでの期間については以下の記事で解説しています。

新しく入れ歯を作成する必要があるときの考え方

新しく入れ歯を作成する必要があるときは、今ある入れ歯の特徴をなるべく変えないことが大切です。ガイドラインでも、やむを得ず新義歯を製作する場合には、現義歯の欠点を補い、その特徴を可及的に変えない設計を考慮するとされています。つまり、見た目も感触も大きく変えない方向が望ましいということです。

認知症患者さんの入れ歯を新しく作り直した場合、77.8%の方が新しく作成した入れ歯を使用してくれなかったという研究データもあります。この研究では、対象者数が少ないため、このデータが必ずしも正しいわけではありませんが、認知症の方の場合、新しく入れ歯を作成したとしても、使用してもらえない可能性があるといえるのではないでしょうか。

今の入れ歯で使えている点を確認し、その特長を新しい入れ歯にも残すとよいでしょう。見た目や理想形を優先して、形態を大きく変えると、せっかく作成した入れ歯を使用してもらえないことがあります。

高齢者施設における認知症および寝たきり状況と義歯使用状況の関連:予備的研究

「認知症の方に入れ歯を作成する前に確認したいこと」のまとめ

認知症の方に入れ歯を作成する前に確認したいことは、本人が受け入れられそうか家族や介護者の支えが見込めるか、そして今ある入れ歯を修理や調整で生かせないかの3点です。認知症があっても、入れ歯作成を一律にあきらめる必要はありませんが、新しい入れ歯は受け入れられず、使用に至らないことがあります。

そのため、すでに入れ歯があるなら、まずは修理や調整を優先して考えることが大切です。新しく作る場合も、現義歯の特徴をなるべく変えず、本人の負担と生活環境を見ながら判断します。迷ったときは、「新しく作れるか」だけでなく、「完成後に使い続けられるか」という視点で歯科医師と相談することが大切です。

Q&A

「認知症の方に入れ歯を作成する前に確認したいこと」と関連する質問を集めました。

認知症があると、入れ歯はもう作れませんか?

いいえ、一律に作れないわけではありません。ガイドラインでも、単に認知症を理由に義歯の装着や治療が不可能と判断するべきではないとされています。本人の受容性や介護環境を含めて総合的に判断します。

認知症の方に新しい入れ歯を作る前に、何を確認すればよいですか?

本人が受け入れられそうか、家族や介護者が着脱や清掃を支えられそうか、そして今ある入れ歯を修理や調整で使えないかを確認することが大切です。

すでに入れ歯がある場合でも、新しく作った方がよいですか?

必ずしもそうではありません。中等度以上の認知症では、使用率の面からは修理・調整の方が有利と考えられるため、まずは今ある入れ歯を生かせないか考えるのが基本です。

認知症の方に新しい入れ歯を作るなら、どんな点に注意すべきですか?

現義歯の特徴をなるべく変えず、本人が受け入れやすい形を目指すことが大切です。見た目や理想形を優先しすぎると、かえって使えなくなることがあります。

目次