入れ歯がないと高齢者は認知症になりやすい?|義歯の使用は予防に役立つ?

入れ歯ナビ:入れ歯の装着は高齢者の認知症の予防効果がある
遠藤眞次
この記事の執筆者
歯科医師兼歯科専門ライター。東京都池袋の歯医者「グランドメゾンデンタルクリニック」で診療しています。

「歯がなくても食べられるから、そのままで大丈夫では?」と感じる方は少なくありません。一方で、「入れ歯を使わないと認知症になりやすいのでは」と不安になる方もいると思います。

結論からいうと、歯が少ないのに入れ歯を使わない高齢者は、認知症のリスクが高い可能性があります ただし、入れ歯を入れれば認知症を確実に防げる、あるいは改善できるとまでは、現時点の科学では言い切れません。

この記事では、高齢者の認知症の基本を整理したうえで、入れ歯と認知症の関係、予防のために義歯を使う意義、入れ歯を作るときの注意点をやさしく解説します。

本記事で学べる歯科知識
  • 高齢者の認知症の基礎知識
  • 入れ歯がないことと認知症発症のリスク
  • 入れ歯の使用が認知症予防につながるか
  • 入れ歯で認知症が改善するかどうか
目次

1分でわかる!入れ歯がないと高齢者は認知症になりやすい?|義歯の使用は予防に役立つ?

歯が少ないのに入れ歯を使わない高齢者は、認知症のリスクが高い可能性があります 日本の研究では、歯がほとんどなく義歯を使っていない人は、20歯以上ある人に比べて認知症発症リスクが1.85倍でした。

しかし現状では、入れ歯の使用は認知症予防に役立つ可能性はありますが、確実な予防効果を断言することはできません。また、入れ歯による認知症の改善効果については、現時点では不明です。

だからこそ、歯を失ったら放置せず、入れ歯などでかめる状態を保つことが大切です。

高齢者の認知症の基礎知識

高齢者の認知症を考えるときは、単なる“物忘れ”ではなく、判断・理解・生活機能まで影響する状態だと捉えることが大切です。

本項では、高齢者の認知症とは何か、認知症の有病者率、そして「かむこと」が脳にどのような影響を与えうるのかを整理します。

高齢者の認知症とは?

高齢者の認知症とは、いったん正常に発達した認知機能が、脳の病気などにより持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障が出る状態です。

単なる加齢による「少し忘れやすい」とは異なり、記憶だけでなく、見当識、判断、理解、意思疎通、生活動作にも影響することがあります。

高齢になるほど頻度は上がりますが、年齢だけで必ず起こるものではありません。入れ歯の使用や口腔ケアを考えるうえでも、認知症では「必要性を理解する」「手順を覚える」「継続して管理する」ことが難しくなりやすい点が重要です。

高齢者の認知症の有病率

日本における認知症の有病率の推計値を以下の表に示します。

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年代認知症有病者率の目安
65〜69歳約1〜2%
70〜74歳約3〜5%
75〜79歳約8〜10%
80〜84歳約15〜20%
85〜89歳約25〜35%
90歳以上約40〜60%以上
年齢別の認知症の有病者率(目安)

年齢の上昇に伴って、認知症の有病者率は増加していきます。認知症は加齢と共に発症する病気と考えることもできます。

かむことが脳に与える影響

かむことは、食べるためだけでなく、脳への感覚入力や生活機能の維持にも関わります。

動物実験では、かみ合わせを失うと記憶や学習に関わる機能が低下する報告が多く、ヒトでも歯を失うことが認知機能低下と関連する研究が増えています。

一方で認知症は、全身状態、社会的背景、教育歴など多くの因子が影響するため、「かめないこと」だけが原因と断定することはできません。ですが、歯を失ったまま放置せず、できるだけかめる状態を保つことは、認知症予防の観点からも理にかなった対応です。

厚生労働省が行った、令和6年度歯科疾患実態調査によると、高齢者の平均喪失歯数を以下の表に示します。

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年代一人平均喪失歯数
65〜69歳4.7本
70〜74歳6.7本
75〜79歳8,4本
80〜84歳8.9本
85歳以上13.7本
各年代において、平均でどれくらいの本数の歯を失っているかを表します(令和6年度歯科疾患実態調査)。

入れ歯と認知症の関係

入れ歯と認知症の関係で重要なのは、「歯がないこと」そのものより、「歯が少ないのにかめる状態を回復していないこと」に問題があるという点です。

ここでは、入れ歯がないことが認知症リスクとどう関わるのか、入れ歯の使用が予防につながるのか、そして認知症の改善まで期待できるのかを分けて整理します。

入れ歯がないことは認知症のリスクである

歯が少ないにもかかわらずに入れ歯を使っていないことは、認知症のリスクと関連する可能性があります。

日本の高齢者4,425人対象とした研究では、歯がほとんどなく義歯を使っていない人は、20歯以上ある人に比べて認知症発症リスクが1.85倍でした。

歯が少ないのに入れ歯を使用していなければ、認知症の発症リスクは1.85倍高くなる。
歯の本数が少ない場合、入れ歯なのでかみ合わせを回復させないと認知症のリスクが高くなる可能性がある。

ただし、こうした研究は関連を示すものであり、「入れ歯がないことだけ」で認知症になると断定はできません。それでも、歯を失ったまま放置しないことは重要です。

入れ歯を入れることで認知症は予防できる可能性がある

入れ歯の使用は、認知症予防に役立つ可能性があります。

日本老年歯科医学会のガイドラインでも、「使用可能な義歯装着は認知症の予防に有用となる可能性がある」と記載されています。

日本のある研究では、歯がほとんどなくても入れ歯を使っている人では、20本以上歯がある人と比べて認知症発症リスクに差はないとするデータもあります。

つまり、自分の歯が少ない状態では、そのまま放置するより、入れ歯などでかみ合わせを回復することが認知症の予防につながると考えることができます。

入れ歯を入れると認知症は改善するのか?

現時点では、入れ歯を入れることで認知症が改善するとまでは言えません

入れ歯の使用者が非使用者より認知症の進行を遅らせられる、という確かな報告はないとガイドラインでも述べられています。

ここで大切なのは、「予防につながる可能性」と「改善させる効果」は別だということです。

入れ歯は、かむ、話す、見た目を整える、食べやすさを保つといった面で生活を支える治療ですが、認知症そのものを治す治療ではありません。

認知症の予防・改善のために入れ歯を作る場合の注意点

認知症予防のために入れ歯を作ったとしても、作れば終わりではなく、使い続けられるかまで考える必要があります

とくに認知症が進んでからの新製義歯は受け入れが難しいことがあり、家族や介助者の支援も重要です。ここでは、入れ歯を作っても使ってもらえない問題と、作製後のケアを支える人の役割を整理します。

入れ歯を作っても使ってもらえないことがある

認知症予防や生活機能維持のために入れ歯が望ましい場合でも、作れば必ず使えるわけではありません

認知症患者の義歯診療ガイドラインでは、認知機能、基本的ADL、口腔関連ADLが低い患者では、義歯を製作・調整しても実際の使用率は低いとされています。

用語解説│ADL

ADLは Activities of Daily Living の略で、「日常生活動作」と訳されます。食事、着替え、トイレ、入浴、移動など、毎日生きていくために基本となる動きがどのくらい自分でできるか を表す考え方です。

また、寝たきりや認知症になる前に使えていた入れ歯は、その後も継続使用できる可能性が高い一方、認知症が進行してから新しく作る入れ歯に慣れるのは難しいことがあります。

理想的には、認知症が進んでから慌てて新しく作るより、歯を失った時点で早めに欠損補綴を整えておくほうが楽な場合が多いと思います。

入れ歯を作ったあとのケアには家族や介助者の助けが必要

認知症の予防のために入れ歯を作る場合でも、使い続けるには家族や介助者の助けが必要になることがあります

認知症では、入れ歯の着脱、洗浄、保管、紛失防止などの管理が難しくなりやすく、本人だけでうまく続けられないことがあります。

入れ歯の着脱、洗浄、保管、紛失については下記の記事をご覧ください。

「良い入れ歯を作れば本人だけで自然に使える」と考えてしまいがちですが、就寝前に入れ歯を外す声かけ、洗浄の介助、紛失時の対応など、日々の支援が認知症の方の入れ歯治療をサポートします。

「入れ歯と認知症のなりやすさ・認知症予防の関係性」のまとめ

歯が少ないにもかかわらず入れ歯を使っていない高齢者では、認知症のリスクが高い可能性があります

一方で、入れ歯を入れれば認知症を確実に予防できる、あるいは改善できるとまでは言えません。だからこそ、歯を失ったら放置せず、入れ歯をはじめとする適切な欠損補綴治療で「かめる状態」を保つことが大切です。

認知症が進んでからでは新しい入れ歯に慣れにくくなることもあるため、早めの対応と、家族・介助者を含めた継続支援が重要です。

Q&A

「入れ歯と認知症のなりやすさ・認知症予防の関係性」に関する質問を集めました。

入れ歯がなくても認知症になる可能性はありますか?

あります。認知症は多因子で起こるため、入れ歯の有無だけで決まるわけではありません。ただし、歯が少ないのに義歯を使っていないことは、認知症リスクと関連する可能性があります。

歯がなくなるとボケるって本当?

「歯がなくなると必ずボケる」とまでは言えません。ただ、歯の喪失や歯周病、咀嚼機能の低下が認知機能低下・認知症と関連する研究は増えています。関連は示されていますが、因果関係はまだ完全には証明されていません。

入れ歯と認知症の関係は?

歯が少ないのに入れ歯を使っていない高齢者では、認知症の発症リスクが高い可能性があります。義歯の使用は予防に役立つ可能性がありますが、改善効果まで断定できる段階ではありません

歯が少なくても、やわらかい物が食べられれば入れ歯は不要ですか?

そうとは限りません。入れ歯の役割は、食べられることだけでなく、咀嚼刺激、発音、見た目、残っている歯への負担軽減などにもあります。認知症予防の観点からも、歯を失ったまま放置しないことが大切です。

認知症が進んでから新しく入れ歯を作っても大丈夫ですか?

新しく入れ歯を作れる場合もありますが、受け入れや継続使用が難しいことがあります。認知症が進む前から使えている義歯の方が、その後も継続しやすい可能性が示されています。

参考文献

  1. 認知症患者の義歯診療ガイドライン2018
  2. Association between self-reported dental health status and onset of dementia: a 4-year prospective cohort study of older Japanese adults from the AGES Project.
  3. Periodontal health, cognitive decline, and dementia: A systematic review and meta-analysis of longitudinal studies.
  4. 歯科から考える認知症予防への貢献
  5. Dose-response meta-analysis on tooth loss with the risk of cognitive impairment and dementia.
  6. Trends in dementia prevalence, incidence, and survival rate in a Japanese community
  7. 厚生労働省 令和6年歯科疾患実態調査
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