認知症があると、「もう入れ歯は使えないのでは」「作っても結局外してしまうのでは」と不安になる方は多いと思います。
結論からいうと、認知症でも装着できる入れ歯はあります。 ただし、それは「特別な種類の入れ歯」というより、今まで使えていた入れ歯に近く、痛みが少なく、外れにくく、介助しやすい入れです。
この記事では、認知症と入れ歯の関係を整理したうえで、認知症の方が装着しやすい入れ歯の特徴と、作るときの注意点をやさしく解説します。
- 認知症と入れ歯の関係
- 認知症の方が入れ歯を拒否しやすい理由
- 認知症でも装着しやすい入れ歯の考え方
1分でわかる!認知症でも装着できる入れ歯は?

認知症でも装着できる入れ歯はあります。
大切なのは、今ある入れ歯を修理・調整して使えるなら、それを優先すること、そして新しく作る場合も今までの入れ歯にできるだけ近く、痛みが少なく、外れにくく、しかも外しやすい設計にすることです。
日本老年歯科医学会のガイドラインでは、認知機能や基本的ADL、口腔関連ADLが低い患者では、新しく入れ歯を作っても実際の使用率が低いことが示されています。可能であれば新しく入れ歯を作るのではなく、今ある入れ歯の修理・調整を優先したほうが、受け入れやすいでしょう。
認知症だから入れ歯は無理と考えるのではなく、本人の受け入れやすさと介助のしやすさを優先して考えることが重要です。
| 治療内容 | サポート | 痛み | 安定性 | 着脱性 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 使いやすい 入れ歯 | 今ある入れ歯を 修理・調整する | 家族などの サポートがある | 痛みがない | 食事をしても 外れにくい | 外しやすい |
| 使いにくい 入れ歯 | 新しく 入れ歯を作る | 家族などの サポートがない | 痛みがある | すぐに外れる | 外しにくい |
認知症の基本情報
認知症と入れ歯の関係性を知る前に、認知症の基本的な情報を整理します。
認知症の方が入れ歯を装着できるかを考えるときは、単なる物忘れではなく、理解・判断・手順の実行まで影響する病気だと理解することが大切です。
本項では、認知症とは何か、認知症と入れ歯がどう関係するか、そしてなぜ入れ歯を拒否しやすいのかを整理します。装着できる入れ歯を考える前に、「なぜ使えなくなるのか」を知ることが、対応の第一歩になります。
認知症とは
認知症とは、いったん正常に発達した認知機能が、脳の病気などによって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障が出る状態です。単なる加齢による物忘れとは異なり、記憶だけでなく、見当識、判断、理解、意思疎通、生活動作にも影響します。
入れ歯との関係で大切なのは、「入れ歯が必要だと理解する」「外して洗う」「決まった場所に保管する」「違和感を言葉で伝える」といった行動が難しくなりやすい点です。
そのため、認知症の方の入れ歯治療は、口の中だけでなく、生活の中で使い続けられるかまで考える必要があります。
認知症と入れ歯の関係
認知症が進むと、義歯の必要性を理解しにくくなったり、着脱や清掃、保管が難しくなったりします。
日本老年歯科医学会のガイドラインでは、認知症の程度や基本的ADL、口腔関連ADLが低下している患者では、義歯を製作・調整しても実際の使用率が低いと報告されています。
ADLは Activities of Daily Living の略で、日本語では 日常生活動作 といいます。ADLは「生活する力のうち、基本的な身の回り動作」を表す言葉です。
一方で、認知症だから義歯治療が一律に不可能というわけではありません。すでに使えている入れ歯がある、家族や介助者の支援がある、本人が受け入れられる、といった条件がそろえば、入れ歯の装着を続けられることがあります。
1997年の少し古いデータですが、認知症の方の入れ歯使用率は47.3%、入れ歯が必要なのに使用していない方の割合は47.2%でした。認知症ではない方の入れ歯使用率は61.5%、入れ歯が必要なのに使用していない方の割合は30.8%です。

認知症の場合には、入れ歯が必要であっても使用していない方が多いことが分かります。
認知症の方が入れ歯を拒否する理由
認知症の方が入れ歯を拒否する理由は一つではありません。その理由をいくつか示します。
- 入れ歯の必要性が分からない
- 違和感や痛みをうまく伝えられない
- 外し方や入れ方が分からない
- 口の中を触られること自体が不安
義歯の必要性を理解しない患者では調整して装着を勧めても受容しない症例が多いとされています。また、新しい入れ歯は形や感触が変わるため、今まで使えていた人でも急に拒否が出ることがあります。
入れ歯の拒否を「わがまま」と捉えるのではなく、理解しにくい、痛い、不安、手順が難しいという背景から考えることが大切です。
認知症の方が装着できる入れ歯とは?
認知症の方が装着できる「特別な入れ歯」は存在せず、本人が受け入れやすく、介助者も扱いやすい入れ歯を作ることが重要です。
本項では、修理・調整した入れ歯、今ある入れ歯に近い入れ歯、痛みが少ない入れ歯、外れにくく外しやすい入れ歯、清掃しやすい入れ歯という観点で整理します。
結論としては、「高機能そうな入れ歯」より、「今の生活で使い続けられる入れ歯」を優先して考えることが重要です。
今ある入れ歯を修理・調整した入れ歯
認知症の方が装着しやすい入れ歯として、まず考えたいのは今ある入れ歯を修理・調整して使うことです。
日本老年歯科医学会のガイドラインでは、今ある入れ歯が使えている場合、認知症患者では新しい入れ歯を製作するよりも修理・調整の方が有効な可能性があるとされています。
今まで使っていた入れ歯は、本人が感触や形にある程度慣れているため、新しいものより受け入れられやすいからです。痛い部分を調整する、割れたところを修理する、ゆるみを補正するだけで再び使えることもあります。
認知症の方では「新しいほどよい」とは限らず、使い慣れたものを生かす発想が大切です。
認知症の方の入れ歯を新しく作る場合の注意事項は、下記の記事にまとめています。

今ある入れ歯に近い入れ歯
どうしても新しく入れ歯を作る必要がある場合でも、認知症の方が装着しやすいのは今までの入れ歯にできるだけ近い入れ歯です。
やむを得ず新義歯を製作する際には、今ある入れ歯の欠点を補いつつ、その特徴を可及的に変えないように配慮することが推奨されます。
見た目、厚み、歯並び、床の広がり、着脱の感触が大きく変わると、本人が「別物」と感じて受け入れにくくなることがあります。認知症の方では、新しいやり方や新しい感触に慣れること自体が負担になりやすいためです。
新製義歯を考えるときは、理想形だけでなく、今まで使えていた要素をどれだけ残せるかが重要です。
痛みがなく外れにくい入れ歯
認知症の方が装着しやすい入れ歯には、痛みが少なく、食事中に簡単には外れないことが必要です。
痛みがあると、本人はそれをうまく言葉にできず、単に「入れ歯を嫌がる」「口を開けない」という形で表現することがあります。
また、外れやすい入れ歯は不安感につながり、装着自体を嫌がる理由になります。
入れ歯は本来、痛みがないことと、日常生活で外れにくいことが基本です。見た目や細かな理想を優先するより、まずは痛くない、外れにくいという土台を整えることが、装着継続につながります。
外れにくく外しやすい入れ歯
認知症の方の入れ歯では、外れにくさだけでなく、必要なときに外しやすいことも大切です。認知症患者さんの入れ歯設計においては、機能性だけでなく着脱性も考慮すべきです。
食事中にすぐ外れる入れ歯は困りますが、逆に介助者でも外しにくすぎる入れ歯は、清掃や就寝前の管理が難しくなります。認知症の方では、本人が自分で外せないことも多いため、介助者が安全に着脱できるかが重要です。
つまり、装着できる入れ歯とは、単にしっかり入る入れ歯ではなく、生活の中で管理しやすい程度に外れにくく、必要時には外しやすい入れ歯です。
入れ歯の正しい外し方については、下記の記事をご覧ください。

清掃しやすい入れ歯
認知症の方が装着し続けるには、清掃しやすい入れ歯であることも大切です。認知症では、入れ歯の清掃や保管を本人だけで継続することが難しくなります。
認知症の方の入れ歯管理は、本人より介護者に委ねることや、家族等の介護力を考慮した設計が必要です。複雑で汚れがたまりやすい形は、本人にも介助者にも負担になります。
もちろん機能を犠牲にして単純化すればよいわけではありませんが、装着できる入れ歯を考えるうえでは、清掃のしやすさ、名前入れや保管のしやすさ、介助しやすさまで含めて考える必要があります。
使うだけでなく、清潔に管理できるかも重要な条件です。
認知症の方が入れ歯を装着する場合の注意点
認知症の方が入れ歯を装着する場合は、作ればうまくいくとは限らず、入れ歯に対する慣れ、本人が受け入れられるか、家族や介助者の支えまで含めて考える必要があります。
本項では、今まで使っていない場合の注意、自費治療を急がない理由、まず装着できるかを確認する重要性、そして介助の必要性を整理します。
認知症の方の入れ歯治療では、完成度よりも受け入れて使い続けられるかが優先です。
今までに入れ歯を使用していない場合は要注意
認知症の方が今までに入れ歯を使ったことがない場合は、特に慎重な判断が必要です。
認知症では、新しい道具や新しい習慣を受け入れることが難しくなりやすく、たとえ歯がなくても「入れ歯を入れる意味」が本人に伝わらないことがあります。
新しい入れ歯を製作しても、実際の使用に至らないことがあるという報告があります。今まで使った経験がない人に、いきなり新しい入れ歯を受け入れてもらうのは、認知症が進んでいるほど難しいことがあります。
装着できるかどうかは、口の中の条件だけでなく、本人の理解、生活環境、介助体制まで含めて見極める必要があります。
いきなり自費治療の入れ歯を作るのは危険
認知症の方に、最初から高額な自費治療の入れ歯を急いで作るのは慎重であるべきです。理由は、認知症の方では新しい入れ歯を受け入れられないことがあり、結果として使われない可能性があるからです。
もちろん、自費の入れ歯そのものが悪いわけではありません。ですが、装着継続の見込みがはっきりしない段階で、見た目や機能の理想を優先しすぎると、本人にも家族にも負担が大きくなります。
まずは修理・調整や、現在の入れ歯に近い形で受け入れられるかを確認し、その後に必要性を考える方が安全です。
高機能な入れ歯より、まず使える入れ歯を優先することが大切です。
まずは入れ歯を装着してもらえるかを確認することが大切
認知症の方の入れ歯治療では、まず「良い入れ歯を作ること」よりも、本人が装着を受け入れてくれるかを確認することが大切です。
痛みがないか、違和感が強すぎないか、外したがるか、食事時に使えるか、といった点を段階的に見ていく必要があります。装着の可否をみる前に高度な理想設計を追いすぎると、かえって治療がうまくいかないことがあります。
まずは短時間でも装着できるか、日常の中で使えるかを確認し、そのうえで必要な調整を重ねていく発想が大切です。
本人だけではなく家族や介助者の手助けが必要な場合もある
認知症の方が入れ歯を装着し続けるには、本人だけでなく家族や介助者の支えが必要になることがあります。着脱の声かけ、洗浄の介助、保管場所の管理、紛失防止など、日々の支援が入れ歯治療の成果を左右します。
本人が装着できるかどうかを考えるときも、「本人だけでできるか」ではなく、「家族や介助者が支えたときに続けられるか」という視点が重要です。
認知症でも装着できる入れ歯は、本人の口に合うだけでなく、支える人の生活にも合う入れ歯です。
「認知症でも装着できる入れ歯は?」のまとめ
認知症でも装着できる入れ歯はあります。
大切なのは、特別な種類の入れ歯を探すことではなく、今まで使えていた入れ歯を修理・調整して生かすこと、やむを得ず新しく作る場合も今までの入れ歯にできるだけ近づけること、そして痛みが少なく外れにくく、清掃や着脱がしやすいことです。
一方で、認知症の方では、新しい入れ歯を受け入れにくいことや、本人だけで管理が難しいことがあります。だからこそ、いきなり高機能な入れ歯を目指すより、まず装着して使ってもらえるかを確認し、必要に応じて家族や介助者の支えを前提に考えることが重要です。
認知症だから入れ歯は無理と決めつけず、認知症の方にとって受け入れやすいという視点で治療を考えるとよいでしょう。
Q&A
「認知症でも装着できる入れ歯は?」に関する質問を集めました。
- 認知症でも入れ歯は使えますか?
-
使えることはあります。認知症だから一律に無理というわけではなく、今までの入れ歯の使用歴、本人の受け入れやすさ、家族や介助者の支援などによって変わります。
- 認知症の方が入れ歯を嫌がるのはなぜですか?
-
必要性が分からない、痛みや違和感をうまく伝えられない、手順が分からない、口の中を触られるのが不安、などの理由が重なることがあります。
- 認知症の方が装着しやすい入れ歯はありますか?
-
あります。今ある入れ歯を修理・調整したもの、今までの入れ歯に近いもの、痛みが少なく、外れにくく、しかも外しやすい入れ歯が装着しやすいと考えられます。
- 認知症の方にいきなり自費の入れ歯を作っても大丈夫ですか?
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慎重に考えた方がよいです。高額な入れ歯でも、受け入れられなければ使われません。まずは装着できるかどうか、現在の入れ歯を生かせないかを確認する方が安全です。
- 家族や介助者はどこを手伝えばよいですか?
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着脱の声かけ、洗浄の介助、保管場所の管理、紛失防止などです。認知症の方の入れ歯治療では、本人だけでなく支える側の介護力も重要です。


